傍観者の気まぐれ
人が恋に落ちる瞬間を、初めて見た。
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中学生活の三年間、ずっと同じクラスであった親友、武藤《遊戯》とは同じ高校へと進学したが、今回クラスは分かれたようだった。
「今年は城之内くんとクラスが違うんだな」
「そんな寂しそーな顔すんなって! ま、違うクラスなんて初めてだからオレも変なカンジはするけどよ。でも教室も端と端ってワケじゃねぇし、すぐ会えんだろ」
ニッ、と城之内が笑うと《遊戯》も笑みを返す。また後で、と声を掛け合って、城之内と《遊戯》はこれから一年を過ごす教室へと向かって行った。
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「…武藤遊戯ぃ?」
「えっ? う、うん…」
自分の教室へと入り、城之内はある事実に目を見張った。先程まで自分と一緒に居た人物と、全く同じ名前をした人間を見つけた為だ。
「へー! お前、オレのダチと同じ名前だぜ」
ポンポン、と自分よりも低い場所に位置する頭に手を乗せる。いきなり見知らぬ相手に顔をジロジロと見られ畏縮していた"武藤遊戯"であったが、城之内の好意的な態度に体の力を緩めた。
「ボクと同じ? …《遊戯》くんっていう子が君の友達に居るの?」
「あぁ、"武藤"まで一緒だぜ?」
「そうなんだ」
そう言ってにっこりと笑った遊戯に、思わず城之内は続けていた。
「オレ、城之内克也ってんだ。お前さ、放課後とか暇? もう一人の《遊戯》に紹介してぇなって思ったんだけど」
愛想も決して良くはない自分が、初対面の人物相手にこんな事を言っているだなんて考えられないと思う。ましてや《遊戯》に誰かを紹介する、なんて今まで有り得なかった事だ。
中学に入って出会い、そして親友にまでなった武藤《遊戯》という男は排他的な面を持っており、他人に懐く事などもほぼ無い。今でこそ行動を共にしている城之内と《遊戯》だが、それも紆余曲折を経て築き上げた関係である。
そんな《遊戯》に、目の前の相手を引き合わせようと思ったのは単なる気まぐれなんだろうか。
「ホント? ボクも会いたい!」
嬉しそうに応えた遊戯に、城之内も自然と顔が綻んだ。
こいつの笑顔、何かいいよな。
…だから何となく、会わせたくなっちまったんだよなぁ。
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「《遊戯》~! ちょっと待てよ。一緒に帰んだろ?」
教室を出て暫く先、自分の前を歩いている《遊戯》の姿を見つけた城之内は軽い足取りでその距離を詰め、肩を組んで相手を引き寄せた。
「城之内くんか。昇降口で君を待とうと思っていた」
「へへっ、そりゃどーも」
自分を見上げる姿に既視感を覚える。今日、どこかでこの位のヤツと話をしたような気がするが、《遊戯》とは今朝もそれ程会話をしていない。では一体誰だったか…と思考を巡らせて、目の前の友人ともう一人の武藤遊戯の姿が重なった。
あぁ、そっか。こいつら似てんだ。と、自分と共に教室を出て来た筈の新しい友人を振り返る。
「城之内くん、待って~!」
しかし真後ろに居るかと思っていた小さな姿はそこには無く、少し離れた所からパタパタと追いかけてくる遊戯を見て、城之内は相手との歩くペースを考えていなかった事をほんの少し後悔した。
「…っと。悪ィな、遊戯。置いてきちまってたか」
「ううん! ボクが歩くの遅かっただけだから」
「…? どうかしたのか、城之内くん」
追いついた遊戯だが、その姿は城之内に遮られて《遊戯》からは見えない。遊戯もそれは同じで、『誰かが側に居る』という事しか分からない。
城之内はそんな二人を見比べて、ニヤリと笑う。ただ単純に、この二人を引き合わせたらどうなるのかと興味があった。
「《遊戯》! 今日オレ新しいダチが出来たんだよ。お前に紹介してェと思ってさ」
ほら、と城之内が自分の身を引いて二人の遊戯が顔を合わせた瞬間、城之内はにわかには信じられないものを見た、と思った。
「…っ!」
《遊戯》が息を呑み、その顔を僅かに赤らめたのだった。
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