白銀に華

踏み出す度にキュ、と鳴る音は、積もった雪の上を歩いている証拠だ。
童実野町を襲った寒波は、滅多に降る事の無い雪を積もらせて視界一面を白に染める。

遊戯は学校を出てから、普段よりもゆったりとした足取りで家へと向かっていた。
「……」
ほんの少し離れた所では、やはり帰宅途中だと思われる子供達が楽しそうに白い息を吐きながら遊んでいた。
そんな様子に心が温まるのを感じながら、自分も少し、遊んで帰ろうかという気になってくる。雪だるまを作りながら帰る訳にはいかないが、遠回りをして誰も歩いていない新雪に足跡を残すくらいなら出来るだろう。

「…あれ?」

しかし、向かった先の道には誰かの足跡が続いていた。自分よりも先に同じ事を考えた人物が居たのか、それともこの人通りの少ない道が、足跡の人物にとっての帰路であるのか。
「……」
思惑こそ外れてしまったが、遊戯はそのまま、遠回りになる道の上を歩き出した。

残った跡の上をなぞるように足を踏み出していく。この足跡の人物は自分のものよりほんの少し広い幅で進んで行ったのか、いつもより大きな歩幅で歩くのは力が必要だった。
バランスを取りながら歩いていると、少し息が上がるようで何となく楽しい気分になってくる。
「ふふっ」
漏れた小さな笑みは、白い息と共に後ろへと流れた。

暫く歩いていると、とある事に気付いた。自分のものより大きな歩幅で残されていたはずの足跡をなぞるのが、楽になっている。
「ボクと、同じ歩幅…」
下しか向いていなかった顔を、そっと上げてみた。変わらず続く足跡の先に、こちらを振り返って見ている人物がいる。
「……」
白い世界。今、この世には何も無いのではないかと錯覚してしまいそうな自分の視界に、ただ一つ確かな色。

立ち止まってこちらを待っているような人物に、見覚えがあった。仲がいい訳でもない。喋った事すらない。けれど…
けれど、彼は確か…-

「ねぇ、一緒に帰ってもいいかな?」
動かないまま視線を向け続けてくれていた彼の方へと駆け寄ると、自然と話し掛けてしまった。
縮まった距離が肯定かと思ったが、それに反して彼は少し困ったように聞いてくる。
「…いいのか?」
「?」
「オレの足跡の上を歩いてきたんじゃないのかと思って。並んで歩いたら、足元濡れるぜ」
「あははっ。大丈夫だよ、今更だし」
それに、と遊戯は続けた。
ここまで歩いてきたのは、遊戯にとってささやかなゲームだった。それを終わらせてもいい理由が、すぐ傍にある。

「それに、誰かの隣を歩いた方が、ずっと楽しいよ」


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