憶測オクロック

遊戯の部屋の中では静かに、それはそれは静かに、時計の秒針の音が自己を主張している。

カチ、コチ、と音は鳴るものの、良く見るとそれは時計の役割を果たしていなかった。
電池が今にも切れそうなのか、秒針は微かに動きを見せるだけでそれ以上進む事がない。
《遊戯》は半透明な姿で遊戯の傍らに居ながら、何も喋らない相手の向こう側にある時計を見つめていた。

恐らくは遊戯も、この意味を成さない時計の存在には気付いていながら、直していないのだろうと思う。

進んでいるようで進まない。
それは今のオレ達にどこか似ているようで。
ほんの少しの願望のようで。


オレ達は近々、エジプトへ発つ。


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針の進まない時計では確かめようもないが、時刻は恐らく深夜零時の手前。
『時計、直さないのか?』

少しの決意を込めて聞いた。
夜が明けたら、今まで告げずにいたこの気持ちを、自分の中で燻っていた想いを相手に伝えようと。

そして多分に、相手も解っているのだ。
それ程までに傍に居た。
心はすぐ隣に居た。

「…ん。直すよ」
ちゃんと直すよ、と自分に言い聞かせるように呟く。

「朝が来たら、動くようにしておくね」

オレの告げる言葉には、きっと返されるべき答えが出たのだ。
それが望むものであるにしろ、ないにしろ、これからも刻まれる愛しいこの時を、オレの魂にも刻み付けたいと思った。

『あぁ。おやすみ、相棒』
「おやすみ、もう一人のボク」

やっと合った瞳は、何かを想うように細められた後、名残惜しげに閉じられた。

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