私はヒロインじゃない
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降りしきる雨。
赤色の傘と長靴を履いた女児。
血濡れの男と少女が互いに目を合わせていた。
シュボッ・・
ついたライターの炎にタバコをつける。
吐き出した煙が宙を舞って霧散した。
「兄貴、どうかしましたか?」
「・・・なんでもねえ。」
赤色の傘が、通り過ぎていった。
神様は、一体私に何をさせたいのだろうか?
「どうした?つかれたか??」
「んん、大丈夫。」
ならよかったと安堵する少年。
彼に手を引かれて・・何度も避けてきたジェットコースターにのるのだ。
私は今日、平成六年一月十三日を五回過ごしていた。
この現象は今回だけのことではなかった。
私がこの世界「名探偵コナン」に、ソレもヒロインである毛利蘭に成り代わり生まれてから何度も。
もう、以前の私は覚えていない。家族も仕事も、私の顔・名前さえも・・・。
全部消し去ってしまうほどの時だった。
ノイローゼで倒れ入院した事もある。
ありえぬ人と会い、何が気に喰わなかったのか・・もう一度同じ日を逆戻りした。そして戻って欲しいと願う時には繰り返さずに次の日へと進む。
若いカップルの二人、そのうちの男性は今生きている。でも、このあと亡くなるのだ。
私は知っているのに、助けることはできない。
嫌というほど味わってきた絶望。でも、物語は進んでしまうのだ。
「きゃああああああああああ!!!」
ジェットコースターの終わりに、女性の悲鳴が響き渡った。
降りた私はゆっくりと振り返る。
其処には首のない男性の遺体があった。
あふれ出る血・・視線を逸らせて目を閉じた。
一緒に流れたのは涙。
名探偵工藤新一が、推理をしていく中。
差し出されたのは白のハンカチ。
顔を上げて、私は目を見開いた。
銀色の長い髪に黒の服装・・・確かに、彼らがここに居ることは知っていた。
知っていたが、何故私にハンカチをさしだしているのだろう?
お互いに見つめあう。そして、どこか感じる既視感。
「蘭!」
不意に腕を引かれたことで視線が新一にもどった。
「・・やる。」
かけられた声に黒服の彼を振り返れば、手に落ちる白いハンカチ。
「あ、ありがとうございます。」
一礼した私を一瞥して彼は相方だろう男のほうへと戻った。
「・・蘭、アイツ知り合いなのか?」
眉根を寄せて問う新一に、私は苦笑した。
「違うよ。」
「・・あんま、ふらふらすんなよ。」
「うん。」
白いハンカチで、私は涙の痕を拭う。
タバコの香がした。
『お願いだから、危ないことはしないで。』
探偵として警察に助言し始めた時、蘭に言われた言葉を思い出していた。
『事件と聞くと・・新一は突っ走っていくから、心配なの・・。』
大丈夫だと、笑って答えた俺。
でも、笑うしかないな・・・。
「・・あばよ 名探偵。」
去っていく黒ずくめの男たち。俺の意識はここで途切れた。
私は止めなかった。
新一が小さくなることを。
最後の足掻きとして遊園地だけは行くまいとしていたのに、結局は戻ってしまった時間。
彼が小さくなることは、この世界の“絶対”なのだと思われたから。
私は何のためにここへきたのだろう?
答えは見えない。
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