深くなる宙を
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「はあっ、はっ……! ちっ……!」
私は汗まみれの顔を顰めて、乾いた地面をぎりっと蹴った。砂埃の立つその地面は、この短時間で何度も踏み鳴らされ激しく凹凸の波が残っている。疎らに生えた雑草は、エネルギー弾により焦げついているものもある。
模擬戦の相手は、他でもないターレスだった。これまで既に何度か拳は交えてきたものの、かすり傷どころか埃すら相手に付けることも許されない劣勢である。そして、いくら稽古といえど手加減はまるでない。
私の放った拳は、たった1寸すらない程の距離ですんなりと避けられてしまった。
「……けっ、弱っちいな。お前の力はその程度か」
ターレスはいつものように、マントについた埃を払うだけのしぐさで戦闘を終える。その声音に苛立ちが混ざってるのか、それとも本気で呆れてるのかは、まだ私には判別がつかない。
弱い、と言われたその言葉がやけに心に刺さって、苛立ちと似た感情がぶわっと脳を支配した。
「うっっっさい! 今のあと半歩で当たってたんだからな……!」
「フン、夢見てろ」
吠える私など目もくれず、表情を変えずふいと背を向けたターレスに、私は顔を真っ赤にして歯噛みする。
(くっっっっそおおおおおおおお!!!!!)
勢いで投げつけた気弾は、眩い空の遥か彼方へと飛んで行った。
* * *
──数時間後。
「……それで、結局1発も当たらなかったと」
「そうだよ当たんなかったよ、また空振り3振ってヤツ!?」
どさっと酒瓶ごと私はテーブルに突っ伏す。隣では、いつもの光景にうんざりした顔をしているアモンドが、つまらなさそうに髪をいじっていた。
「……あのなぁ、ロゼ。それ言って何回飲んだくれに来てんだよ。今週だけで4回目でっせい」
ため息混じりにアモンドはそう言う。
彼の言う通り、私はこうしてターレスとの稽古で打ちのめされてはバーに来るのが日課になりつつある。晩酌が趣味のアモンドは、決まってカウンターの左から2番目に座っていて、静かに酒の味を楽しんでいる。
そんな日課が、私という風来坊により一変したことに、彼はよく頭を抱えるようになっていた。とはいえ、そんなこと私には関係ないことである。
「筆頭が強すぎんのが悪いの!!」
「いやまあ、それは否定できないけどよ」
面倒くさそうな表情こそ浮かべど、アモンドは非常に器の大きな漢だった。こうして私の項垂れに付き合ってしまうから、巻き込まれるということに早く気づかなければならない。否定せず宥めてくれる彼の言葉に、私はすっかり毎晩縋っている。
そんな彼に甘えて、私は次々と弱音を零す。
「あたしだって、頑張ってんのに……『弱っちい』って言われんの、地味に刺さるんだよお……」
その言葉への慰めが思い浮かばなかったのか、アモンドは黙りこくってグラスに手を伸ばしている。その仕草さえも腹が立って、思わず自分の持つグラスをドンと机に叩きつけてしまった。
私は強い。育った星では圧倒的な力を持っており、何にも優る存在だったと自負している。これは誇張や自信過剰などではなく、確実なる事実だったはずだ。
しかし、ターレスは強すぎたのだ。否、私の住む場所が狭すぎたのかもしれない。私だって本当に強かったはずなのに、ターレスと出会った瞬間、絶対彼には勝てないと悟った。そう思わざるを得なかったのだ。
追いつきたい。追いつきたい、なのに遠すぎる彼の背中。弱いという言葉と事実。ずっとそのことが、酔いの回った朧気な脳内で反芻される。
「うぇえええええええええん」
「ったく、お前はガキか」
いつの間にやら、後ろからやってきたダイーズが私の後頭部を小突く。酒瓶に抱きついていた私は、渋々その声に顔を上げた。
「しっかりしろよ、新入り。ターレス様が直々に、毎回稽古にお付き合いしてくださっているんだぞ。それが贅沢だと分かっているのか?」
もう片方の私の隣の椅子に座り、ダイーズはグラスをテーブルに置く。ひとつは赤ワイン、もうひとつはチェイサーだった。
普段アモンドからは飛んでこない説教に、私はあからさまに不機嫌な顔をして口を尖らせる。
「う……。それは、分かってる……けどぉ」
「ならとっとと飲み干して、明日の分のストレッチでもして寝るでっせい」
アモンドとダイーズ、2人に半ばあしらわれ、ぐでんとテーブルに突っ伏した私。そうしてモジモジとしていると、ダイーズは冷えた水をこちらに差し出してくれた。
ダイーズの言葉に少し落ち着きを取り戻し、訛った思考回路を取り戻すように水を飲む。全身に染み渡るその冷たさに、少しだけ冴えたその頭の奥には、先程ターレスが放った冷たくも不思議と重みのある言葉が残っていた。
──けっ、弱っちいな。
やはり、その言葉にはどうしても心が引っかかってしまう。悔しくて悔しくてたまらない、苛立ちが止まらない。なのにあの広い背中に憧れのような感情に焦がれて仕方ない。もっと強くなりたい。
言われっぱなしでは悔しい。私の体に流れるサイヤ人の血とやらが、騒いで仕方がないのだ。自分の人種など私には関係のないことだが、それでも本能とやらは健在で、今にも再戦したい気持ちに駆られる。
それが余計に、私の負けん気に火をつけるのだった。
「……ッくそーーー!! 明日は絶対絶対1発入れてやるからなぁぁあ!!」
「おい、コップ割るなよ」
「静かに飲め」
私は汗まみれの顔を顰めて、乾いた地面をぎりっと蹴った。砂埃の立つその地面は、この短時間で何度も踏み鳴らされ激しく凹凸の波が残っている。疎らに生えた雑草は、エネルギー弾により焦げついているものもある。
模擬戦の相手は、他でもないターレスだった。これまで既に何度か拳は交えてきたものの、かすり傷どころか埃すら相手に付けることも許されない劣勢である。そして、いくら稽古といえど手加減はまるでない。
私の放った拳は、たった1寸すらない程の距離ですんなりと避けられてしまった。
「……けっ、弱っちいな。お前の力はその程度か」
ターレスはいつものように、マントについた埃を払うだけのしぐさで戦闘を終える。その声音に苛立ちが混ざってるのか、それとも本気で呆れてるのかは、まだ私には判別がつかない。
弱い、と言われたその言葉がやけに心に刺さって、苛立ちと似た感情がぶわっと脳を支配した。
「うっっっさい! 今のあと半歩で当たってたんだからな……!」
「フン、夢見てろ」
吠える私など目もくれず、表情を変えずふいと背を向けたターレスに、私は顔を真っ赤にして歯噛みする。
(くっっっっそおおおおおおおお!!!!!)
勢いで投げつけた気弾は、眩い空の遥か彼方へと飛んで行った。
* * *
──数時間後。
「……それで、結局1発も当たらなかったと」
「そうだよ当たんなかったよ、また空振り3振ってヤツ!?」
どさっと酒瓶ごと私はテーブルに突っ伏す。隣では、いつもの光景にうんざりした顔をしているアモンドが、つまらなさそうに髪をいじっていた。
「……あのなぁ、ロゼ。それ言って何回飲んだくれに来てんだよ。今週だけで4回目でっせい」
ため息混じりにアモンドはそう言う。
彼の言う通り、私はこうしてターレスとの稽古で打ちのめされてはバーに来るのが日課になりつつある。晩酌が趣味のアモンドは、決まってカウンターの左から2番目に座っていて、静かに酒の味を楽しんでいる。
そんな日課が、私という風来坊により一変したことに、彼はよく頭を抱えるようになっていた。とはいえ、そんなこと私には関係ないことである。
「筆頭が強すぎんのが悪いの!!」
「いやまあ、それは否定できないけどよ」
面倒くさそうな表情こそ浮かべど、アモンドは非常に器の大きな漢だった。こうして私の項垂れに付き合ってしまうから、巻き込まれるということに早く気づかなければならない。否定せず宥めてくれる彼の言葉に、私はすっかり毎晩縋っている。
そんな彼に甘えて、私は次々と弱音を零す。
「あたしだって、頑張ってんのに……『弱っちい』って言われんの、地味に刺さるんだよお……」
その言葉への慰めが思い浮かばなかったのか、アモンドは黙りこくってグラスに手を伸ばしている。その仕草さえも腹が立って、思わず自分の持つグラスをドンと机に叩きつけてしまった。
私は強い。育った星では圧倒的な力を持っており、何にも優る存在だったと自負している。これは誇張や自信過剰などではなく、確実なる事実だったはずだ。
しかし、ターレスは強すぎたのだ。否、私の住む場所が狭すぎたのかもしれない。私だって本当に強かったはずなのに、ターレスと出会った瞬間、絶対彼には勝てないと悟った。そう思わざるを得なかったのだ。
追いつきたい。追いつきたい、なのに遠すぎる彼の背中。弱いという言葉と事実。ずっとそのことが、酔いの回った朧気な脳内で反芻される。
「うぇえええええええええん」
「ったく、お前はガキか」
いつの間にやら、後ろからやってきたダイーズが私の後頭部を小突く。酒瓶に抱きついていた私は、渋々その声に顔を上げた。
「しっかりしろよ、新入り。ターレス様が直々に、毎回稽古にお付き合いしてくださっているんだぞ。それが贅沢だと分かっているのか?」
もう片方の私の隣の椅子に座り、ダイーズはグラスをテーブルに置く。ひとつは赤ワイン、もうひとつはチェイサーだった。
普段アモンドからは飛んでこない説教に、私はあからさまに不機嫌な顔をして口を尖らせる。
「う……。それは、分かってる……けどぉ」
「ならとっとと飲み干して、明日の分のストレッチでもして寝るでっせい」
アモンドとダイーズ、2人に半ばあしらわれ、ぐでんとテーブルに突っ伏した私。そうしてモジモジとしていると、ダイーズは冷えた水をこちらに差し出してくれた。
ダイーズの言葉に少し落ち着きを取り戻し、訛った思考回路を取り戻すように水を飲む。全身に染み渡るその冷たさに、少しだけ冴えたその頭の奥には、先程ターレスが放った冷たくも不思議と重みのある言葉が残っていた。
──けっ、弱っちいな。
やはり、その言葉にはどうしても心が引っかかってしまう。悔しくて悔しくてたまらない、苛立ちが止まらない。なのにあの広い背中に憧れのような感情に焦がれて仕方ない。もっと強くなりたい。
言われっぱなしでは悔しい。私の体に流れるサイヤ人の血とやらが、騒いで仕方がないのだ。自分の人種など私には関係のないことだが、それでも本能とやらは健在で、今にも再戦したい気持ちに駆られる。
それが余計に、私の負けん気に火をつけるのだった。
「……ッくそーーー!! 明日は絶対絶対1発入れてやるからなぁぁあ!!」
「おい、コップ割るなよ」
「静かに飲め」
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