箒星に乗って
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銀色の空の下、淡く紫がかった霧が立ち込める惑星テューレ。神精樹の成長条件を満たしそうな計測数値に導かれ、クラッシャーターレス軍団はその星に降り立った。不気味な天候だが土壌は良く、後はこの星を残す価値があるかをこの目で判断するだけだ。
しばらくの間歩き回った私たちは既に探索に疲れており、私は手を後ろで組みながらぶらぶら歩いていた。
「あたしの直感的には微妙だけどなあ……まあ、筆頭が言うなら……」
私の1歩先を歩くターレスは、無言でスカウターを見つめていた。冷えた風にマントが靡き、大きな影となって揺らめいている。
「そろそろ一息ついておくか。住人から直接情報を集めた方が早い」
ターレスの短い言葉で、一同は街の中心部にある酒場へと向かうこととなった。一段と賑やかなその酒場の入口から覗いた中は想像より騒がしく、異星の言語と酔った笑い声が飛び交っている。私は肩を竦めながら、うるさいなあと小声で呟く。
「俺とロゼで先に中を見てくる。お前らは入り口で待機しろ」
ターレスがそう言うと、思わぬ発言に眉を上げる。
「え、あたしも? まあいいけど……なんか、筆頭とこうして街歩くのって、変な感じ」
「無駄口が多いぞ」
「へいへい」
ガランガランとドアベルが鳴るも、喧騒に揉まれて一瞬で溶けていく。新規客だとか、見慣れぬ顔だとかは関係なく、ここにいる者は私たちに全く見向きもしない。ほとんどの客が酒に呑まれていた。
ターレスが振り向き目が合うと顎で奥を指され、後ろを着いていきカウンター席の1番端へと腰をかける。静かにこちらへやってきたマスターは、この喧騒に慣れているのか、スムーズにメニューを手渡してきた。
「あ、えと。ビールで」
店に来ておいて、一銭も払わぬというのは無礼だということは世間知らずの私でも分かっている。とはいえそこまで酒に詳しい訳ではなく、筆頭が頼んだような難しいカタコトの酒はやめて、飲み慣れたものを注文することにした。
すぐに届いたビールを飲み、心の中でのどごしに歓喜しながらちらりとターレスに目配せする。彼は私の視線に気づきつつ、周囲の観察に勤しんでいる。ぎゃあぎゃあ、ガシャンガシャン、ガタゴト、様々な音が響くこの場所で、私はあまり情報を得てやろうと言う気分にはなれなかった。そもそも、あまり聞こえてこないのはともかく、異国語が全く分からないのだ。
つまらなさそうに頬杖をつく私に、急にこめかみへデコピンが飛んでくる。
「いでっ!?」
咄嗟に顔を向けると、バカを見る目でターレスがこちらを見ている。なんだなんだとむすくれ顔で睨み返していると、彼の手がこちらに伸びてきて、ピッと機械音がする。何度かピッ、ピッ、と聞こえてくると、スカウターに文字が浮かんできた。
「お、……おお! すご!」
よくその文字を読んでいくと、それはどうやら会話文らしく、周囲の言葉を翻訳されたものだと気づいた。スカウターにこんな機能があったとは驚きだ、通りでターレスが周りを集中して見ているわけである。
「おい、見ろよ、あの顔。見覚えがあると思ったら……」
ふと、そんな会話が目につく。同じく反応したターレスが、ふっと目を細めて鋭い視線を向ける。その会話はどうやら、酒場の奥から響くざらついた声が正体らしい。薄暗いボックス席の一角にいた大柄な男が立ち上がり、こちらに近づいてくる。
「おいターレスじゃねえか! しぶとく生きてやがるな……ククッ、まさか生き残っていたとは」
そう言いながらやってきたのは、ターレスよりもアモンドよりも大きな体をした男だ。鉄製の兜と鎧を身につけ、背中には太刀を携えている。ニヤニヤとした表情からは、ターレスを見下していることがよく分かる。
彼の名前を知っているということは知り合いなのだろうか。ターレスはゆっくりと顔を上げ、冷たい目で男を見据える。
「誰かと思えば、まだ死んでなかったのか。ザリク」
「覚えてんじゃねえか。こいつとは昔、同じ連隊にいたんだぜ。まあ、俺のほうが階級も実力も上だったけどよ」
ザリクは下品に笑いながら、仲間たちにそう言うとゲラゲラと爆笑が起こる。如何にも下劣で嫌味な奴だと私は思った。自分のことではないが、思わず殴りたくなってしまう。
ザリクはひとしきり笑うと、隣にいる私を見て怪訝そうに眉を顰めた。
「なんだお前ェ、女を連れてるのか? 雑魚そうな女だな、そういうのが好みかよ!」
そんな皮肉に酒場の笑い声が一瞬盛り上がり、嫌なぬるい空気が流れる。私はムッとして言い返そうとした瞬間──その前に、ターレスが小さく手を上げた。
「言わせておけ、くだらん遠吠えだ」
言い返そうと開いた私の口が自然と閉じる。静かだが芯の強い声音。その一言で、私の胸の奥に溜まった怒りすら一瞬で冷やされる。
「……クク、相変わらず鼻につく野郎だな」
ザリクの顔が歪み、青筋と共に怒りと苛立ちが露骨に浮かぶ。それでも余裕を繕うように彼はニヤついたまま、手を広げるように躙り寄ってくる。その背後から、重たそうな足音と共に数人の屈強な連れが姿を見せた。旧時代のサイヤ人らしい戦闘服を身につけ、荒っぽい気配を纏い、ターレスを包囲するようにして近づいてくる。
「お前……生きてるからってずいぶん偉そうじゃねえか?」
「そうそう、舐めた態度取ってんじゃねえぞ」
取り巻きの挑発など一切効いておらず、ターレスはいつものニヒルな笑みを崩さずにいる。
「事実を言ったまでだ、生き残ってたことに驚いただけでな。……お前の程度で、よく今まで死ななかったもんだ」
酒場の空気がピシリと張り詰めた。誰もが息を呑み、視線を交わす。その一言が、あまりにも冷たく、あまりにも的確だったからだ。
「てめえ……!」
ザリクの額にくっきりと青筋が浮かぶ。次の瞬間、相手はついに椅子を蹴飛ばし、携えた太刀を片手に突っ込んでくる。私が迎え撃とうと腰を低くした時だった。
「動くなよ、ロゼ」
そう告げたターレスが、ほんの僅かに前へと踏み込んだだけで、目にも見えぬ空気が爆ぜた。足運びは静かだが、まるで大気が押しつぶされるように重く響く。その一撃は拳ですらなかった。
ターレスの尻尾が、黒い鞭のようにうなって地面を叩き、風圧だけでザリクと周囲の者たちの身体は大きく弾かれた。
「がっ……!」
彼らはまるで玩具のように床を滑り、酒場の壁へと叩きつけられる。悲鳴は衝撃音にかき消された。
「……っ、なんだ……!?」
残った取り巻き達は目を見開き、次々と気を高めて構える。だがターレスは一歩も引かず、ただ静かに関節を鳴らす。
「まとめて来るか? ……生きて帰れたら褒めてやるぜ」
その目は冷たく、そして確か笑っていた。ただの挑発ではなく、圧倒的な〝差〟の自覚があるからこその揺るぎない自信。どれも余裕という言葉すら生ぬるく感じるほどの圧だった。
私は横目でその姿を見ながら胸が熱くなり、どこか誇らしげな笑みを浮かべた。
「ふふん、やっぱり筆頭ってさ……カッコいいよねえ」
呑気にそう呟いた次の瞬間──
「てめえらァァッ!!」
激高した取り巻きの1人が、エネルギー弾を構えて突進してくる。
「言っても聞かねえって顔だね。しょうがない……なあ!」
私は前へ踏み出し、軽く気を跳ね上げる。空気が震えるほどの疾さで踏み込み、蹴り上げた一撃が1人の男の腹に突き刺さる。鈍い音とともに男が吹き飛んだ。
「誰が〝雑魚そうな女〟だって? 言ってくれるねぇ、ほんとに!」
更に1人、もう1人と私に大胆に襲いかかってくる。相手の拳が頬を掠めるほどの距離だったが、私は身体を軽く回して受け流し、逆に相手の腹部へ一撃を叩き込む。
「片手でも十分だよ、あんたら程度ならね!」
エネルギーが弾け、酒場の床が軋む。立ち尽くす客達がごくりと息を呑む中、ターレスは顎を少し上げて私を見た。
「調子は悪くなさそうだな」
「ん、うん! ま、筆頭に負けないくらいには!」
自信満々の笑みで返すと、彼は目を細めて笑った。その笑みについ胸が弾む。自分の力に、そして自分の実力で彼の隣に立てていることに。そして、今ここで見せつけてやるのだ。過去なんかじゃ測れない、今のクラッシャーターレス軍団の力を。
粉塵が舞い、酒場の中は静まり返っていた。床には転がる取り巻きたち。壁にもたれかかるようにして肩で息をしているザリク。その顔には驚愕、困惑、そしてどうしようもない敗北の色が浮かんでいた。酒場は凍りついたような静寂に包まれている。
「お前、そんな力を……いつの間に……ッ!」
絞り出すような声だった。それに対してターレスは、ただ肩の埃を払うように軽く手を動かし、まるで答えを与える義理もないといった表情で言い放つ。
「さあな? 気づいた時にはこうなっていた。だが強くなったから言うんじゃない、俺はずっと変わらない」
ターレスは1歩、ザリクの前に立つ。覆い被さった影が、まるでそのまま圧倒的な実力の差を彷彿とさせる。ザリクの視線が下から吸い寄せられる。
「俺はあの頃と同じだ。欲しいものを奪い、登れるだけ登り……宇宙の頂点、その先に手をかける。それだけさ」
静かに、だが絶対に揺らがない意志が、その言葉に宿っていた。改めて言葉にされたターレスの目標を、その語る姿を横から私はじっと見つめる。
「お前らと違って、くすぶってる暇はないんでな」
ザリクは何も言えなかった。言葉を返そうとしても声が詰まる。ただ目の前のターレスの姿が、まるで別の生き物のように見えていたのだ。
後ろからトン、と軽く肩をつつく。にこっと笑って、彼を見上げた。
「筆頭。そういうとこ、あたしは好きだなあ」
「はっ、勝手に惚れ直してろ」
ターレスは顔を背けたが、その口元はかすかに、笑っていた。
その後、私たちは酒場を後にした。
意外なことに、店を出る前ターレスはマスターに会計より明らかに多い札束を渡していた。何を告げたのか私の位置からは聞き取れなかったが、マスターの宥和な表情を見て、私から首を突っ込むのはやめた。
衝撃や大音がしたにも関わらず、ターレスの命令を聞いてずっと大人しく入口で待っていた団員たちは、戻ってきた私たちを見てそれぞれ困惑の表情を浮かべている。私の呑気な顔を見たラカセイがひそひそと何が起きたか聞いてきたが、私は口元に人差し指を当てて黙っておいた。
「情報は……集まりましたか?」
宇宙船までの帰路の間、ダイーズが眉を顰めてターレスに尋ねる。まあな、とひとつ返事だけ彼は返し、ダイーズもそれ以上は追及しなかった。
「残すの? この星」
そばでやり取りを見ていた私は、しばらくしてターレスに話しかける。小首を傾げていると彼は大笑いし、面白そうに言った。
「はっはっは! おいおい、宇宙の頂点が誰なのか、見届けてもらわないと困るだろ?」
「……俄然やる気満々だぁ〜」
「フン、いつも通りだ」
そんなやり取りをしながら、私はアモンドが待機中にこっそり買ってきてくれたフルーツドリンクを飲み干した。
しばらくの間歩き回った私たちは既に探索に疲れており、私は手を後ろで組みながらぶらぶら歩いていた。
「あたしの直感的には微妙だけどなあ……まあ、筆頭が言うなら……」
私の1歩先を歩くターレスは、無言でスカウターを見つめていた。冷えた風にマントが靡き、大きな影となって揺らめいている。
「そろそろ一息ついておくか。住人から直接情報を集めた方が早い」
ターレスの短い言葉で、一同は街の中心部にある酒場へと向かうこととなった。一段と賑やかなその酒場の入口から覗いた中は想像より騒がしく、異星の言語と酔った笑い声が飛び交っている。私は肩を竦めながら、うるさいなあと小声で呟く。
「俺とロゼで先に中を見てくる。お前らは入り口で待機しろ」
ターレスがそう言うと、思わぬ発言に眉を上げる。
「え、あたしも? まあいいけど……なんか、筆頭とこうして街歩くのって、変な感じ」
「無駄口が多いぞ」
「へいへい」
ガランガランとドアベルが鳴るも、喧騒に揉まれて一瞬で溶けていく。新規客だとか、見慣れぬ顔だとかは関係なく、ここにいる者は私たちに全く見向きもしない。ほとんどの客が酒に呑まれていた。
ターレスが振り向き目が合うと顎で奥を指され、後ろを着いていきカウンター席の1番端へと腰をかける。静かにこちらへやってきたマスターは、この喧騒に慣れているのか、スムーズにメニューを手渡してきた。
「あ、えと。ビールで」
店に来ておいて、一銭も払わぬというのは無礼だということは世間知らずの私でも分かっている。とはいえそこまで酒に詳しい訳ではなく、筆頭が頼んだような難しいカタコトの酒はやめて、飲み慣れたものを注文することにした。
すぐに届いたビールを飲み、心の中でのどごしに歓喜しながらちらりとターレスに目配せする。彼は私の視線に気づきつつ、周囲の観察に勤しんでいる。ぎゃあぎゃあ、ガシャンガシャン、ガタゴト、様々な音が響くこの場所で、私はあまり情報を得てやろうと言う気分にはなれなかった。そもそも、あまり聞こえてこないのはともかく、異国語が全く分からないのだ。
つまらなさそうに頬杖をつく私に、急にこめかみへデコピンが飛んでくる。
「いでっ!?」
咄嗟に顔を向けると、バカを見る目でターレスがこちらを見ている。なんだなんだとむすくれ顔で睨み返していると、彼の手がこちらに伸びてきて、ピッと機械音がする。何度かピッ、ピッ、と聞こえてくると、スカウターに文字が浮かんできた。
「お、……おお! すご!」
よくその文字を読んでいくと、それはどうやら会話文らしく、周囲の言葉を翻訳されたものだと気づいた。スカウターにこんな機能があったとは驚きだ、通りでターレスが周りを集中して見ているわけである。
「おい、見ろよ、あの顔。見覚えがあると思ったら……」
ふと、そんな会話が目につく。同じく反応したターレスが、ふっと目を細めて鋭い視線を向ける。その会話はどうやら、酒場の奥から響くざらついた声が正体らしい。薄暗いボックス席の一角にいた大柄な男が立ち上がり、こちらに近づいてくる。
「おいターレスじゃねえか! しぶとく生きてやがるな……ククッ、まさか生き残っていたとは」
そう言いながらやってきたのは、ターレスよりもアモンドよりも大きな体をした男だ。鉄製の兜と鎧を身につけ、背中には太刀を携えている。ニヤニヤとした表情からは、ターレスを見下していることがよく分かる。
彼の名前を知っているということは知り合いなのだろうか。ターレスはゆっくりと顔を上げ、冷たい目で男を見据える。
「誰かと思えば、まだ死んでなかったのか。ザリク」
「覚えてんじゃねえか。こいつとは昔、同じ連隊にいたんだぜ。まあ、俺のほうが階級も実力も上だったけどよ」
ザリクは下品に笑いながら、仲間たちにそう言うとゲラゲラと爆笑が起こる。如何にも下劣で嫌味な奴だと私は思った。自分のことではないが、思わず殴りたくなってしまう。
ザリクはひとしきり笑うと、隣にいる私を見て怪訝そうに眉を顰めた。
「なんだお前ェ、女を連れてるのか? 雑魚そうな女だな、そういうのが好みかよ!」
そんな皮肉に酒場の笑い声が一瞬盛り上がり、嫌なぬるい空気が流れる。私はムッとして言い返そうとした瞬間──その前に、ターレスが小さく手を上げた。
「言わせておけ、くだらん遠吠えだ」
言い返そうと開いた私の口が自然と閉じる。静かだが芯の強い声音。その一言で、私の胸の奥に溜まった怒りすら一瞬で冷やされる。
「……クク、相変わらず鼻につく野郎だな」
ザリクの顔が歪み、青筋と共に怒りと苛立ちが露骨に浮かぶ。それでも余裕を繕うように彼はニヤついたまま、手を広げるように躙り寄ってくる。その背後から、重たそうな足音と共に数人の屈強な連れが姿を見せた。旧時代のサイヤ人らしい戦闘服を身につけ、荒っぽい気配を纏い、ターレスを包囲するようにして近づいてくる。
「お前……生きてるからってずいぶん偉そうじゃねえか?」
「そうそう、舐めた態度取ってんじゃねえぞ」
取り巻きの挑発など一切効いておらず、ターレスはいつものニヒルな笑みを崩さずにいる。
「事実を言ったまでだ、生き残ってたことに驚いただけでな。……お前の程度で、よく今まで死ななかったもんだ」
酒場の空気がピシリと張り詰めた。誰もが息を呑み、視線を交わす。その一言が、あまりにも冷たく、あまりにも的確だったからだ。
「てめえ……!」
ザリクの額にくっきりと青筋が浮かぶ。次の瞬間、相手はついに椅子を蹴飛ばし、携えた太刀を片手に突っ込んでくる。私が迎え撃とうと腰を低くした時だった。
「動くなよ、ロゼ」
そう告げたターレスが、ほんの僅かに前へと踏み込んだだけで、目にも見えぬ空気が爆ぜた。足運びは静かだが、まるで大気が押しつぶされるように重く響く。その一撃は拳ですらなかった。
ターレスの尻尾が、黒い鞭のようにうなって地面を叩き、風圧だけでザリクと周囲の者たちの身体は大きく弾かれた。
「がっ……!」
彼らはまるで玩具のように床を滑り、酒場の壁へと叩きつけられる。悲鳴は衝撃音にかき消された。
「……っ、なんだ……!?」
残った取り巻き達は目を見開き、次々と気を高めて構える。だがターレスは一歩も引かず、ただ静かに関節を鳴らす。
「まとめて来るか? ……生きて帰れたら褒めてやるぜ」
その目は冷たく、そして確か笑っていた。ただの挑発ではなく、圧倒的な〝差〟の自覚があるからこその揺るぎない自信。どれも余裕という言葉すら生ぬるく感じるほどの圧だった。
私は横目でその姿を見ながら胸が熱くなり、どこか誇らしげな笑みを浮かべた。
「ふふん、やっぱり筆頭ってさ……カッコいいよねえ」
呑気にそう呟いた次の瞬間──
「てめえらァァッ!!」
激高した取り巻きの1人が、エネルギー弾を構えて突進してくる。
「言っても聞かねえって顔だね。しょうがない……なあ!」
私は前へ踏み出し、軽く気を跳ね上げる。空気が震えるほどの疾さで踏み込み、蹴り上げた一撃が1人の男の腹に突き刺さる。鈍い音とともに男が吹き飛んだ。
「誰が〝雑魚そうな女〟だって? 言ってくれるねぇ、ほんとに!」
更に1人、もう1人と私に大胆に襲いかかってくる。相手の拳が頬を掠めるほどの距離だったが、私は身体を軽く回して受け流し、逆に相手の腹部へ一撃を叩き込む。
「片手でも十分だよ、あんたら程度ならね!」
エネルギーが弾け、酒場の床が軋む。立ち尽くす客達がごくりと息を呑む中、ターレスは顎を少し上げて私を見た。
「調子は悪くなさそうだな」
「ん、うん! ま、筆頭に負けないくらいには!」
自信満々の笑みで返すと、彼は目を細めて笑った。その笑みについ胸が弾む。自分の力に、そして自分の実力で彼の隣に立てていることに。そして、今ここで見せつけてやるのだ。過去なんかじゃ測れない、今のクラッシャーターレス軍団の力を。
粉塵が舞い、酒場の中は静まり返っていた。床には転がる取り巻きたち。壁にもたれかかるようにして肩で息をしているザリク。その顔には驚愕、困惑、そしてどうしようもない敗北の色が浮かんでいた。酒場は凍りついたような静寂に包まれている。
「お前、そんな力を……いつの間に……ッ!」
絞り出すような声だった。それに対してターレスは、ただ肩の埃を払うように軽く手を動かし、まるで答えを与える義理もないといった表情で言い放つ。
「さあな? 気づいた時にはこうなっていた。だが強くなったから言うんじゃない、俺はずっと変わらない」
ターレスは1歩、ザリクの前に立つ。覆い被さった影が、まるでそのまま圧倒的な実力の差を彷彿とさせる。ザリクの視線が下から吸い寄せられる。
「俺はあの頃と同じだ。欲しいものを奪い、登れるだけ登り……宇宙の頂点、その先に手をかける。それだけさ」
静かに、だが絶対に揺らがない意志が、その言葉に宿っていた。改めて言葉にされたターレスの目標を、その語る姿を横から私はじっと見つめる。
「お前らと違って、くすぶってる暇はないんでな」
ザリクは何も言えなかった。言葉を返そうとしても声が詰まる。ただ目の前のターレスの姿が、まるで別の生き物のように見えていたのだ。
後ろからトン、と軽く肩をつつく。にこっと笑って、彼を見上げた。
「筆頭。そういうとこ、あたしは好きだなあ」
「はっ、勝手に惚れ直してろ」
ターレスは顔を背けたが、その口元はかすかに、笑っていた。
その後、私たちは酒場を後にした。
意外なことに、店を出る前ターレスはマスターに会計より明らかに多い札束を渡していた。何を告げたのか私の位置からは聞き取れなかったが、マスターの宥和な表情を見て、私から首を突っ込むのはやめた。
衝撃や大音がしたにも関わらず、ターレスの命令を聞いてずっと大人しく入口で待っていた団員たちは、戻ってきた私たちを見てそれぞれ困惑の表情を浮かべている。私の呑気な顔を見たラカセイがひそひそと何が起きたか聞いてきたが、私は口元に人差し指を当てて黙っておいた。
「情報は……集まりましたか?」
宇宙船までの帰路の間、ダイーズが眉を顰めてターレスに尋ねる。まあな、とひとつ返事だけ彼は返し、ダイーズもそれ以上は追及しなかった。
「残すの? この星」
そばでやり取りを見ていた私は、しばらくしてターレスに話しかける。小首を傾げていると彼は大笑いし、面白そうに言った。
「はっはっは! おいおい、宇宙の頂点が誰なのか、見届けてもらわないと困るだろ?」
「……俄然やる気満々だぁ〜」
「フン、いつも通りだ」
そんなやり取りをしながら、私はアモンドが待機中にこっそり買ってきてくれたフルーツドリンクを飲み干した。