箒星に乗って
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視察任務、と言っても別に緊張感ばかりではない。
市場のど真ん中、色とりどりの果実と香辛料の香りに包まれながら、私はぼんやりと空を見上げていた。眩しいくらいに晴れていて、思わず目も眩む明るさだ。時折砂埃が舞い、気温もそれなりに高く汗ばむ陽気である。まあたまにはこういうのも悪くないか、と思い耽った。
この星の文明はあまり進んでいないが、穏やかに賑わう市場では老若男女問わず朗らかだった。普段の戦闘ばかりの殺伐とした雰囲気から離れた、故郷のような懐かしさを含む日常の風景は私の心を暖めてくれる。
そうぼんやりとしていた時だった。
「うわっ!」
何処からか小さな声がして、目の前をよろめいた人影が通り過ぎ──地面に倒れ込みそうになったその影は、付近を観察していたターレスの足元にぶつかっていく。
小さな影、それは子供だった。顔から突っ込んだその子は鼻でもぶつけてしまったのか、顔を抑えてその場で体を縮込めている。
「おい」
ターレスの低い声に、私は思わず身構えた。しかし──
「どうしたガキンチョ、泣くな」
しゃがんだターレスがぽん、と子どもの頭を軽く叩く。威圧的でも乱暴でもなく、軽く撫でるような仕草だった。まるで、傷んでないか確かめるように。
そして子供を見つめる表情は、酷く柔らかなものだった。想像と違う彼の対応に、思わず拍子抜けしてしまう。
「ご、ごめんなさい……。あ、果物っ……」
涙ぐんだ声ではあるが、首を振って子供は答える。彼は袖で目元を拭い辺りを見回すと、地面に落ちてやや土汚れた桃色の果実がひとつ転がっているのを見て、落ち込んだように下を向いた。
「これか」
ターレスは足元の転がった実を拾い、指でくるっと弾いて宙に浮かせる。真っ白なマントにその実を擦り付けて、土を払ってやっていた。衝撃で傷ついたのか、マントには若干の染みも広がっている。
「ご、ごめ、ごめんなさい!」
ターレスの仕草を眺めていた子供は、ハッとして汚れたマントへおもむろに手を伸ばす。焦った様子でポケットをあさり始め、ベージュ色のハンカチでターレスのマントを拭き始める。
「いい、気にするな」
ターレスはそう口にするが、子供の動きを止めるようなことはしない。その子が満足するまで待つような、そんな様子だった。
しばらくして子供が手を引きハンカチをしまうと、彼は少し潰れた果物を子供に差し出す。それを受け取ろうと手のひらを出したその子の上に無言で、2つの果物を乗せた。
「……え?」
潰れた果物がひとつと、綺麗な果物がひとつ。目を丸くしたその子は、落ち込んで下を向いていた顔をパッと上げる。
「しっかり持ってろよ。そっちのは〝落とした分〟の代わりだ、いいな?」
私も子供と同じような表情で、思わず果物を見つめる。
(えっ、それ確かさっき買ったやつじゃ……?)
そういえば、子供が持っていた果物に既視感がある。偵察任務を兼ねて出店を見ていたときのことだ。青果店の前で立ち止まって『少し高ぇな』と渋りながら買ったもののはずだ。
いや、それよりも──その顔を、私は初めて見たかもしれない。険しくもなく、冷たくもない。感情を見せないあのターレスの顔のままなのに、口元が柔らかくて。
ほんの少し、あったかい。
子どもがぺこぺこと頭を下げて走り去っていっても、ターレスは立ち上がってそれ以上なにも言わなかった。
私が呆気に取られて立ってると気配に気づいたのか、ターレスはちらりとこちらを見てくる。
「……なんだ」
「え、あっ、いや。……筆頭ってさ、意外と子供には甘いんだなって。ふふ」
声をかけられ気を取り直す。しかしよく考えると、あの如何にも冷たそうなターレスが子供には優しく笑いかけるとは。意外と言うべきか、似合わないと言うべきか。私は思わず笑ってしまった。
「別にいいだろ」
短く返して、ターレスはさっさと歩き出す。いつもと同じ、読めない表情だった。そんな背中はやはり大きくて、しかし先程より頼もしさが滲んで見えたような気がする。
(……なーんか、ズルいなぁ)
私は再びくすりと笑って、ターレスのあとを追いかけた。
市場のど真ん中、色とりどりの果実と香辛料の香りに包まれながら、私はぼんやりと空を見上げていた。眩しいくらいに晴れていて、思わず目も眩む明るさだ。時折砂埃が舞い、気温もそれなりに高く汗ばむ陽気である。まあたまにはこういうのも悪くないか、と思い耽った。
この星の文明はあまり進んでいないが、穏やかに賑わう市場では老若男女問わず朗らかだった。普段の戦闘ばかりの殺伐とした雰囲気から離れた、故郷のような懐かしさを含む日常の風景は私の心を暖めてくれる。
そうぼんやりとしていた時だった。
「うわっ!」
何処からか小さな声がして、目の前をよろめいた人影が通り過ぎ──地面に倒れ込みそうになったその影は、付近を観察していたターレスの足元にぶつかっていく。
小さな影、それは子供だった。顔から突っ込んだその子は鼻でもぶつけてしまったのか、顔を抑えてその場で体を縮込めている。
「おい」
ターレスの低い声に、私は思わず身構えた。しかし──
「どうしたガキンチョ、泣くな」
しゃがんだターレスがぽん、と子どもの頭を軽く叩く。威圧的でも乱暴でもなく、軽く撫でるような仕草だった。まるで、傷んでないか確かめるように。
そして子供を見つめる表情は、酷く柔らかなものだった。想像と違う彼の対応に、思わず拍子抜けしてしまう。
「ご、ごめんなさい……。あ、果物っ……」
涙ぐんだ声ではあるが、首を振って子供は答える。彼は袖で目元を拭い辺りを見回すと、地面に落ちてやや土汚れた桃色の果実がひとつ転がっているのを見て、落ち込んだように下を向いた。
「これか」
ターレスは足元の転がった実を拾い、指でくるっと弾いて宙に浮かせる。真っ白なマントにその実を擦り付けて、土を払ってやっていた。衝撃で傷ついたのか、マントには若干の染みも広がっている。
「ご、ごめ、ごめんなさい!」
ターレスの仕草を眺めていた子供は、ハッとして汚れたマントへおもむろに手を伸ばす。焦った様子でポケットをあさり始め、ベージュ色のハンカチでターレスのマントを拭き始める。
「いい、気にするな」
ターレスはそう口にするが、子供の動きを止めるようなことはしない。その子が満足するまで待つような、そんな様子だった。
しばらくして子供が手を引きハンカチをしまうと、彼は少し潰れた果物を子供に差し出す。それを受け取ろうと手のひらを出したその子の上に無言で、2つの果物を乗せた。
「……え?」
潰れた果物がひとつと、綺麗な果物がひとつ。目を丸くしたその子は、落ち込んで下を向いていた顔をパッと上げる。
「しっかり持ってろよ。そっちのは〝落とした分〟の代わりだ、いいな?」
私も子供と同じような表情で、思わず果物を見つめる。
(えっ、それ確かさっき買ったやつじゃ……?)
そういえば、子供が持っていた果物に既視感がある。偵察任務を兼ねて出店を見ていたときのことだ。青果店の前で立ち止まって『少し高ぇな』と渋りながら買ったもののはずだ。
いや、それよりも──その顔を、私は初めて見たかもしれない。険しくもなく、冷たくもない。感情を見せないあのターレスの顔のままなのに、口元が柔らかくて。
ほんの少し、あったかい。
子どもがぺこぺこと頭を下げて走り去っていっても、ターレスは立ち上がってそれ以上なにも言わなかった。
私が呆気に取られて立ってると気配に気づいたのか、ターレスはちらりとこちらを見てくる。
「……なんだ」
「え、あっ、いや。……筆頭ってさ、意外と子供には甘いんだなって。ふふ」
声をかけられ気を取り直す。しかしよく考えると、あの如何にも冷たそうなターレスが子供には優しく笑いかけるとは。意外と言うべきか、似合わないと言うべきか。私は思わず笑ってしまった。
「別にいいだろ」
短く返して、ターレスはさっさと歩き出す。いつもと同じ、読めない表情だった。そんな背中はやはり大きくて、しかし先程より頼もしさが滲んで見えたような気がする。
(……なーんか、ズルいなぁ)
私は再びくすりと笑って、ターレスのあとを追いかけた。