ゆめ
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"C組の夢野夢子が援助交際をしている。"そんな噂がまことしやかに囁かれ始めたのは、いつ頃だったか。人付き合いを疎かにしていたわたしを擁護する者はおらず、黙っていると噂はあっという間に広まった。廊下を歩けば嘲笑や嘲りが耳に届き、教室にわたしの顔を見に来る者までいる。最近では教師までもわたしに侮蔑の目を向けてくるようになった。人の噂も七十五日ではなかったのか。
「夢野」
人気のない廊下を歩いていると、自分の苗字を呼ばれた気がして足を止めた。この学校で教師以外に名前を呼ばれるのは実に久しいことだった。振り向くと屋上で何回か会ったことのある仁王雅治くんが立っていた。
「今日の放課後、空いとるか?」
「…ごめん、予定ある」
先ほど携帯に入っていた「今日、会える?」という連絡を思い出しながらそう言うと、彼はポケットからシワシワになったお札を取り出して、こちらに差し出してきた。1万円札だ。それも、何枚かある。
「なに、これ」
噂をおもしろがった男子生徒が馬鹿にしたように笑いながら千円札を差し出してくることはよくあった。だけどこれがそういったものと違うことは明白だ。
「そいつはいくらでおまんを買うたんじゃ。俺はそいつの倍出す。俺に買われんしゃい」
「…そのお金どうしたの?」
仁王くんの手に握られたお札は中学生のポケットから気軽に出てくるような金額ではない。仁王くんも悪いことしてるのかなあ。改めて彼の全身をじっと眺めて、してそうだなあ なんて思っていると、なぜか照れたようにそっぽを向いた。
「お年玉貯金ちと崩した」
いつもかっこつけて飄々としている彼の口から、まさかお年玉なんて単語が出てくるとは思わなかった。大人びて見えても、彼もみんなと同じ普通の中学生なんだな。なんだかきゅんとする。そのお札は大人が涼しい顔で差し出すお札とは重みが違うのだ。そんな大切なもの、わたしにくれるの。
君の気持ちを、試してもいいのかな。
「その通帳に入ってるお金ぜんぶちょうだい」
「ええよ」
躊躇い無く返された答えが、こころの隙間をぴたりと埋めた気がした。
「ふふ、嘘だよ。いらない」
「は?」
「その代わりガリガリ君1本買って」
「何言うとるんじゃ、そんなん安すぎるじゃろ、」
わたしの提案には不満げな声が返された。わたしを必要としてくれるなら、他になにもいらないのに。
「わたしの価値なんか無料以下だよ」
「そんな悲しいこと言いなさんな。少なくとも俺には金なんかじゃ払いきれんくらいよ」
優しく頬を撫でた仁王くんは切ない顔で微笑んでいた。こんなにもこころが満たされたのは初めてのことで、ありあまる喜びに人は涙を流してしまうということを知った。
「夢野」
人気のない廊下を歩いていると、自分の苗字を呼ばれた気がして足を止めた。この学校で教師以外に名前を呼ばれるのは実に久しいことだった。振り向くと屋上で何回か会ったことのある仁王雅治くんが立っていた。
「今日の放課後、空いとるか?」
「…ごめん、予定ある」
先ほど携帯に入っていた「今日、会える?」という連絡を思い出しながらそう言うと、彼はポケットからシワシワになったお札を取り出して、こちらに差し出してきた。1万円札だ。それも、何枚かある。
「なに、これ」
噂をおもしろがった男子生徒が馬鹿にしたように笑いながら千円札を差し出してくることはよくあった。だけどこれがそういったものと違うことは明白だ。
「そいつはいくらでおまんを買うたんじゃ。俺はそいつの倍出す。俺に買われんしゃい」
「…そのお金どうしたの?」
仁王くんの手に握られたお札は中学生のポケットから気軽に出てくるような金額ではない。仁王くんも悪いことしてるのかなあ。改めて彼の全身をじっと眺めて、してそうだなあ なんて思っていると、なぜか照れたようにそっぽを向いた。
「お年玉貯金ちと崩した」
いつもかっこつけて飄々としている彼の口から、まさかお年玉なんて単語が出てくるとは思わなかった。大人びて見えても、彼もみんなと同じ普通の中学生なんだな。なんだかきゅんとする。そのお札は大人が涼しい顔で差し出すお札とは重みが違うのだ。そんな大切なもの、わたしにくれるの。
君の気持ちを、試してもいいのかな。
「その通帳に入ってるお金ぜんぶちょうだい」
「ええよ」
躊躇い無く返された答えが、こころの隙間をぴたりと埋めた気がした。
「ふふ、嘘だよ。いらない」
「は?」
「その代わりガリガリ君1本買って」
「何言うとるんじゃ、そんなん安すぎるじゃろ、」
わたしの提案には不満げな声が返された。わたしを必要としてくれるなら、他になにもいらないのに。
「わたしの価値なんか無料以下だよ」
「そんな悲しいこと言いなさんな。少なくとも俺には金なんかじゃ払いきれんくらいよ」
優しく頬を撫でた仁王くんは切ない顔で微笑んでいた。こんなにもこころが満たされたのは初めてのことで、ありあまる喜びに人は涙を流してしまうということを知った。