ゆめ
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それは、ほんの些細なすれ違いだった。
何度目かのデートの帰り、さり気なく家へと誘導し、終電が近づきそろそろ帰らなきゃと腰を上げた夢子にいっそ住んだらどうかと声をかける。そんな簡単なことで(半)同棲に至った俺たちだったが、やれゼミ飲みだサークル飲みだとやたら家を空ける夢子に、俺はイラついていた。そんな折、夢子が男の家に泊まった。
だいたいは終電か2~3時頃にタクシーなどで帰ってくる。これはまあ、大目に見ている。始発頃に帰ってくるときは、朝まで飲んでいたとき。正直やめてほしいが、ちゃんと家に帰ってこられる程度に意識がしっかりしているならまだマシ。問題は昼近くに帰ってくるときだ。飲んだ帰りに他人の家へと上がり込み、睡眠をとって帰ってくるのだが、寝ている間に何が起こるかわからないその状況を考えただけでゾッとする。
酔っ払った夢子が自ら連絡してくることは滅多に無いが、SNSを眺めていればたいてい誰かしらが投稿しているというのは便利なものだ。いつもは女の部屋に女子だけで泊まっているようだが、その日は違った。「雑魚寝~ わら」という言葉とともに貼られた写真には、モノトーンでシンプルな、いかにもな男の部屋。数人の男女が寝転ぶ中に自分の探していた人物がいるとは、夢にも思いたくなかった。
玄関の鍵を回す音が聞こえて、そちらへと向かう。お出迎えだーなどと脳天気なことを言っている夢子の眼前に、先程の画面を突きつけた。
「男と寝たんか」
「え?んー、男の子もいたけど女の子もいたし、みんな酔っ払って寝てただけだよ。なんもないって」
眠そうに目を擦りへらへらと笑う夢子は、大層に酒臭い。もはや間違いがあったかどうかの事実などどうでもよかった。俺はとにかく疲れ果てていたしイライラしていた。
「もうええ、でてけ。二度と俺の前に姿見せんな」
靴を脱ぐためにしゃがみこんでいた夢子は、俺の冷えた声に無表情でおもてを上げ、ゆっくり俺の言葉を理解したのか、数秒遅れてひどく傷ついた顔をした。何か言うかと思っていた。文句でも、縋る言葉でも、何かしらあると思ったが、ポケットからひよこのぬいぐるみのついた鍵を取り出すと、シューズボックスの上のトレイに静かに置き、踵を返して玄関を出ていった。後から思い返せば、拒絶されてなお食い下がれるような子ではなかったな、と当時の自分が平静を欠いていたことに思い至ったりした。
あれからもう半年は過ぎただろうか。季節は冬。街は浮かれた空気で、あちらこちらに電飾が光っている。まったくそんな気分では無かったが、講義の後友人に引きずられるようにイルミネーションへと連れてこられた。
「こんなもんの何がええんか…」
友人たちと同じく電飾を眺めアホ面を晒す人々を眺めていると、信じられないものが目に入ってきた。数人の女子グループ、はしゃぐ女子たちの中でひとりだけ虚ろな目をしているそいつは、見まごう事なき夢子であった。一瞬呼吸が止まり、次の瞬間、ドッと心臓が強く脈打つのを感じた。
気付けばその方向へと真っ直ぐ向かっていた。わかっていた。再び会えば最後、触れたくてどうしようもなくなる。迷わずそいつの腕を掴んだ。
「ちと、ええか」
幽霊でも見たような顔をしている夢子を半ば無理矢理に引き連れ、人混みから離れる。広場の片隅でようやく手を離すと、警戒した目を向けられた。
「お前さんはひどい女じゃな」
脈絡の無い俺の第一声に、夢子は戸惑ったようだった。
「二度と姿見せるな、言うたじゃろ」
あの日のことを思い出したのか、その表情はみるみる泣きそうな顔へと変わっていく。違う、また傷つけたいわけじゃない。
「お前さんは、ほんに俺の気を引くのが上手い」
言葉の意味を理解した夢子が、泣き笑いのような中途半端な表情になった。さっきから俺の言葉にいちいち感情を振り回される様が、愛おしくてたまらない。小さく名前を呼んで両手を伸ばす。胸に飛び込んできた、懐かしさすら感じる温もりを、ぎゅうと強く抱きしめた。
「夢子、俺無しで生きていく方法を見つけんで…」
「がんばって探したけど、全然見つからなかったよ」
愛おしい涙声に「当然じゃろ」と返した俺の声も、同じくらい潤んでいた。
それは、ほんの些細なすれ違いだった。
何度目かのデートの帰り、さり気なく家へと誘導し、終電が近づきそろそろ帰らなきゃと腰を上げた夢子にいっそ住んだらどうかと声をかける。そんな簡単なことで(半)同棲に至った俺たちだったが、やれゼミ飲みだサークル飲みだとやたら家を空ける夢子に、俺はイラついていた。そんな折、夢子が男の家に泊まった。
だいたいは終電か2~3時頃にタクシーなどで帰ってくる。これはまあ、大目に見ている。始発頃に帰ってくるときは、朝まで飲んでいたとき。正直やめてほしいが、ちゃんと家に帰ってこられる程度に意識がしっかりしているならまだマシ。問題は昼近くに帰ってくるときだ。飲んだ帰りに他人の家へと上がり込み、睡眠をとって帰ってくるのだが、寝ている間に何が起こるかわからないその状況を考えただけでゾッとする。
酔っ払った夢子が自ら連絡してくることは滅多に無いが、SNSを眺めていればたいてい誰かしらが投稿しているというのは便利なものだ。いつもは女の部屋に女子だけで泊まっているようだが、その日は違った。「雑魚寝~ わら」という言葉とともに貼られた写真には、モノトーンでシンプルな、いかにもな男の部屋。数人の男女が寝転ぶ中に自分の探していた人物がいるとは、夢にも思いたくなかった。
玄関の鍵を回す音が聞こえて、そちらへと向かう。お出迎えだーなどと脳天気なことを言っている夢子の眼前に、先程の画面を突きつけた。
「男と寝たんか」
「え?んー、男の子もいたけど女の子もいたし、みんな酔っ払って寝てただけだよ。なんもないって」
眠そうに目を擦りへらへらと笑う夢子は、大層に酒臭い。もはや間違いがあったかどうかの事実などどうでもよかった。俺はとにかく疲れ果てていたしイライラしていた。
「もうええ、でてけ。二度と俺の前に姿見せんな」
靴を脱ぐためにしゃがみこんでいた夢子は、俺の冷えた声に無表情でおもてを上げ、ゆっくり俺の言葉を理解したのか、数秒遅れてひどく傷ついた顔をした。何か言うかと思っていた。文句でも、縋る言葉でも、何かしらあると思ったが、ポケットからひよこのぬいぐるみのついた鍵を取り出すと、シューズボックスの上のトレイに静かに置き、踵を返して玄関を出ていった。後から思い返せば、拒絶されてなお食い下がれるような子ではなかったな、と当時の自分が平静を欠いていたことに思い至ったりした。
あれからもう半年は過ぎただろうか。季節は冬。街は浮かれた空気で、あちらこちらに電飾が光っている。まったくそんな気分では無かったが、講義の後友人に引きずられるようにイルミネーションへと連れてこられた。
「こんなもんの何がええんか…」
友人たちと同じく電飾を眺めアホ面を晒す人々を眺めていると、信じられないものが目に入ってきた。数人の女子グループ、はしゃぐ女子たちの中でひとりだけ虚ろな目をしているそいつは、見まごう事なき夢子であった。一瞬呼吸が止まり、次の瞬間、ドッと心臓が強く脈打つのを感じた。
気付けばその方向へと真っ直ぐ向かっていた。わかっていた。再び会えば最後、触れたくてどうしようもなくなる。迷わずそいつの腕を掴んだ。
「ちと、ええか」
幽霊でも見たような顔をしている夢子を半ば無理矢理に引き連れ、人混みから離れる。広場の片隅でようやく手を離すと、警戒した目を向けられた。
「お前さんはひどい女じゃな」
脈絡の無い俺の第一声に、夢子は戸惑ったようだった。
「二度と姿見せるな、言うたじゃろ」
あの日のことを思い出したのか、その表情はみるみる泣きそうな顔へと変わっていく。違う、また傷つけたいわけじゃない。
「お前さんは、ほんに俺の気を引くのが上手い」
言葉の意味を理解した夢子が、泣き笑いのような中途半端な表情になった。さっきから俺の言葉にいちいち感情を振り回される様が、愛おしくてたまらない。小さく名前を呼んで両手を伸ばす。胸に飛び込んできた、懐かしさすら感じる温もりを、ぎゅうと強く抱きしめた。
「夢子、俺無しで生きていく方法を見つけんで…」
「がんばって探したけど、全然見つからなかったよ」
愛おしい涙声に「当然じゃろ」と返した俺の声も、同じくらい潤んでいた。