続・息吹の勇者は恋をする(TotK編)
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物語の強制力とはどのくらい強いのだろう。
命の危険があることであっても、その後に続く物語を知っているからという理由で、私の死生観はある意味麻痺してしまっているのだと思う。
日々の中で『ロード』のない一度限りの『生』を、取り返しのできないこともあるのだと、そう理解しているはずなのに、結局は近くて遠い未来の結末のために、目の前に待ち受けているであろう凶事に目を瞑る。
ぐっと手を握って、私は目の前で出発の準備をするリンクくんに何とか笑顔を向けた。
「それじゃぁ行ってくるね、ナマエさん」
「うん。行ってらっしゃい。リンクくん。………ゼルダ姫のこと、護ってあげてね」
「うん。大丈夫。しっかり仕事してくるよ」
ちゅっと私のおでこにキスして、英傑の服を着たリンクくんが優しく笑う。
あの、厄災討伐の日から五年が経っていた。
ゼルダ姫が最近、長い髪をばっさり切った。長い髪の時も美人度が引き立って素敵だったけど、短い髪はゼルダ姫の可愛さが引き立って眼福眼福。ありがたいことに私のことを姉のように慕ってくれるので、お姫様だけど妹扱いしてしまう。
可愛い。
歳をとるための薬を開発したプルアが私と同じぐらいの見た目になった。自分を実験体にするってなかなかマッドサイエンティストだよね………。知ってたけど。とりあえず幼女扱いされることに疲れたらしく、薬の効き目を調整しては若返りと老化を繰り返すと言う工程を経て、最終的に20代半ばぐらいの見た目になった。ただ、人生経験からくるものなのか醸し出す雰囲気がちょっと疲れたOLみたいですねって言ったら怒られた。(OLの意味を説明しなきゃ良かった)ついでに、さん付けと敬語をやめなさいと言われたので「プルア」と呼ぶようになった。
ちなみに飲み仲間だ。ちょくちょく一緒に飲んでいる内に、少しお酒に強くなった………と思う。私は何故か毎回、飲み会の後にリンクくんに回収されているけど。
リンクくんと一年ちょっとかけて視察して回ったハイラルの十五箇所に鳥望台が出来た。(途中、厄黙の世界線に行っていたから予定が延びた)未だ起動させるには至っていないけれど、間もなく監視砦の鳥望台を起動させる準備が整うとプルアがつい最近言っていた。
視察の旅が終わってからも度々ゼルダ姫のハイラル巡視に護衛として同行していたリンク君の英傑の服が新しくなった。何となく覚えている『新式』の英傑の服ではなくてデザインは以前のものと同じだけど、それだって新しいものを準備するには手間と労力がかかる。ゼルダ姫………やっぱりリンクくんのこと想ってるよね………ってちょーっとだけ複雑な気持ちになった。リンクくんの気持ちを疑ってるわけじゃないし、ゼルダ姫の想いを否定する気もない。ただ、自分に自信がないだけ。
ん………ちょっとじゃないか。
だいぶ………複雑だ。
そして一つ一つのピースが少しずつ私の記憶にあるものと一致し始め、ついにハイラル城の地下から瘴気が出ていると言う報告があがってしまった。その原因を調査するため、ゼルダ姫自らがリンクくんを伴ってハイラル城の地下に向かうことになったのだ。
私にとってこの世界はもう現実なのに、残酷だ。
結局、私が知っている未来へと事が動きはじめた。
「ナマエ、どうしたのよアンタ。難しい顔してるわよ?そんなに心配なら、一緒に行けばよかったじゃない。城の地下から瘴気が漏れてるなんて………物騒な話だけど、アンタならリンクと二人で戦えるでしょ」
「プルア………」
「監視砦のデッキから見てるだけじゃ、何にもならないわよ」
「ん………まぁそうなんだけど。ゼルダ姫の護衛はリンクくんが十分勤めてくれるだろうし、私はここで待つよ」
「ま、アンタがそう言うならいいけど」
遠目にハイラル城へと向かって消えていく二人の後ろ姿を目に焼き付ける。
あの男が………ガノンドロフが復活する時に、きっと私は邪魔だ。イレギュラーな存在が入る事で、知っている道から外れて最悪な結末を迎えることだけは避けたい。だから、リンクくんには知っていることを『話さない』ということを話した。それがきっと、最善だと信じて。
この日、ハイラル城が地鳴りと共に空に浮上し、ハイラル各地の空に遺跡群が現れ、そしてリンクくんとゼルダ姫が行方不明になった。
私が知っていた『物語』の通りに。
***
……………で、それから一週間。
浮上したハイラル城を見て、やっぱ物語が始まるのかとどよーんとした空気を背負ってたら「鬱陶しいからナマエはとりあえずプルアパッドの調整してなさい。調整中の二台目がうまく起動したら、それ、ナマエにそのままあげるわ」とプルアに言われて、それ以来ずっとラボに篭りきりになっている。
リンクくんと私の視察の旅の頃から少しずつ調整を重ねてきたプルアパッド。めでたく正規品として認められた一台目は、少し前にゼルダ姫の手へと渡った。私が調整している二台目は、正確に言うと二台目と言うより視察の旅の時から使っていたものからデータを引き継いだもので、視察旅の途中に撮影したウツシエや、厄黙の世界で撮影したウツシエも入っている。
だから何としてでもうまく起動させたくて、それに、何かに集中してないと不安に押しつぶされそうで「程々にしときなさいよ」とプルアに心配されるぐらい調整作業に没頭している。
私が知っている通りなら、リンクくんは今ごろ空に現れた浮島にいる。右腕、いきなりもぎ取られるってエグいよね。ラウル王の右腕を貰うことで命は落としていないはずだけど………本当に大丈夫だよね?リンクくん本人が戻ってくるまでは安心できない。
「ナマエ」
そしてゼルダ姫は………。
ぎゅっと心臓が苦しくなって、思わず胸の辺りを掴む。彼女の覚悟に、その深い愛情に、私の存在は邪魔なんじゃないだろうか。
「ナマエ?」
私は、消えてしまった方が良いんじゃないだろうか………。
「ナマエってば!!聞こえてんの?!」
「え、あ、プルア?!………わわっ!」
ガタガタガシャーンッ
プルアの声に驚いてばっと身体を起こしたら、バランスを崩して、何かに引っ掛かって後ろ向きに倒れた。その辺にあったものを巻き込んですごい音をさせてフロアに後ろ頭を打ちつける。
「っいったぁーっ………」
「何やってんのよアンタ。受け身取りなさいよ。ってか、いじってたプルアパッド二号は無事?………あ、大丈夫みたいね」
痛みに悶える私に呆れた声。
ひどいよプルア。
私よりもプルアパッドの心配かいっ!
むーっとして身体を起こすと、そのプルアのむこうに、もう今から考えると五年以上前に、画面の中で見たあの衣装で、笑いを堪えながらこっちを見ているリンクくんがいた。
「一週間ぶりだけど相変わらずだねナマエさん。ぶつけたところは大丈夫?」
「へっ………あ、うん……………リンクくん?」
「うん」
「………幽霊じゃないよね?」
「それ、さっきプルアにも聞かれたよ。幽霊じゃないよ。ちゃんと生身。右腕は………俺のものでは無いけど」
苦笑しながらリンクくんが私の前まで来て、左手を差し出す。その手を取ったら、すぐにぐいっと引き上げてくれた。そしてそのまま、きゅっと強く手を握られる。
「ナマエさん、教えて欲しい事がある」
「……………何?」
「ゼルダ姫は無事?」
「!………何処にとは聞かないんだね」
「それは俺が自分で見つけなきゃいけない答えなのかなって思ってる。だけどもし教えてもらえるなら、ゼルダ姫が無事なのかどうかだけでも知りたい」
リンクくんの真剣な声に、真剣な表情に、ぐっと心臓が痛くなる。
大丈夫、これは伝えても大丈夫なはず。
「私が知っている通りなら、無事だよ」
「………そっか。………良かった」
ほっとした声音に、また心臓が痛い。
気を紛らわすように握られた手を離すように促し、リンクくんから少し距離を取る。何だか……さっきからリンクくんの右手が怖い。前知識で初代ハイラル国王のラウルのものだと知っているはずなのに、何だろう。この私の中にある違和感は。
「ナマエさんはこの右腕のこと知ってるみたいだね。……………ナマエさん?」
リンクくんの右腕を凝視している内に冷や汗が出てきた。何でだろう、この右手が怖い怖い怖い、忌々しい!
ふっと感情が抜ける。
「ナマエさんっ!!」
「ナマエ?!」
リンクくんの何かを制止する声とプルアの焦った声。気がつけば焦った顔のリンクくんに右腕を掴まれていた。
あ………れ………?私、今何しようとした?
掴まれた右腕。
視線をやれば、私の右手は愛用の残心の小刀の柄を握っていた。
「わ………私、今何を………」
「ナマエさん」
「え………嫌っ!!」
「!」
伸ばされた右手が怖くて、思わず反射的に弾いてしまった。目の前で起きたことに、ショックを受けた顔をするリンクくん。私も理解が追いつかない。呆然とそのまま見つめあっている内に、リンクくんの空色の瞳からぼろっと涙が溢れた。
「ナマエさんに嫌われた………」
「えっ、ええっ?!違うの、今のは違う!」
慌てて弁明するも、リンクくんはしゅんっとしたまま。相変わらず童顔だから歳を重ねても涙目に違和感ないな!
「リンクくんのことは大好きなんだよ!」
「本当に………?」
私の言葉に恐る恐るまた右手を伸ばしてきて………
ばしぃっ
今度は思いっきり叩いてしまった。
完全に条件反射。無意識に。
「あー………えっと………」
「……………」
すんっと目の前のリンクくんの表情が消える。
手を伸ばす。
弾く。
手を伸ばす。
叩く。
手を伸ばす。
また弾く。
何度か繰り返したところで、ようやくリンクくんの動きが止まる。
「………ナマエさん、俺のことやっぱり嫌いになっちゃった?」
「ち、違うんだって!条件反射!何だかわからないけど、その右手が怖いの!誰のものかもわかってるのに……何で……………忌々しい」
「ナマエさん?!」
「って……私、何を言った………?」
ぞくっと背筋が冷える。
私じゃ無いナニカが、私の中でリンクくんの右手に反応してる。
「これは………調べてみる必要がありそうね」
目に涙を溜めているリンクくんと、呆然とする私。
冷静なプルアの言葉が、妙に部屋に響いて聞こえた。
物語の強制力とはどのくらい強いのだろう。
命の危険があることであっても、その後に続く物語を知っているからという理由で、私の死生観はある意味麻痺してしまっているのだと思う。
日々の中で『ロード』のない一度限りの『生』を、取り返しのできないこともあるのだと、そう理解しているはずなのに、結局は近くて遠い未来の結末のために、目の前に待ち受けているであろう凶事に目を瞑る。
ぐっと手を握って、私は目の前で出発の準備をするリンクくんに何とか笑顔を向けた。
「それじゃぁ行ってくるね、ナマエさん」
「うん。行ってらっしゃい。リンクくん。………ゼルダ姫のこと、護ってあげてね」
「うん。大丈夫。しっかり仕事してくるよ」
ちゅっと私のおでこにキスして、英傑の服を着たリンクくんが優しく笑う。
あの、厄災討伐の日から五年が経っていた。
ゼルダ姫が最近、長い髪をばっさり切った。長い髪の時も美人度が引き立って素敵だったけど、短い髪はゼルダ姫の可愛さが引き立って眼福眼福。ありがたいことに私のことを姉のように慕ってくれるので、お姫様だけど妹扱いしてしまう。
可愛い。
歳をとるための薬を開発したプルアが私と同じぐらいの見た目になった。自分を実験体にするってなかなかマッドサイエンティストだよね………。知ってたけど。とりあえず幼女扱いされることに疲れたらしく、薬の効き目を調整しては若返りと老化を繰り返すと言う工程を経て、最終的に20代半ばぐらいの見た目になった。ただ、人生経験からくるものなのか醸し出す雰囲気がちょっと疲れたOLみたいですねって言ったら怒られた。(OLの意味を説明しなきゃ良かった)ついでに、さん付けと敬語をやめなさいと言われたので「プルア」と呼ぶようになった。
ちなみに飲み仲間だ。ちょくちょく一緒に飲んでいる内に、少しお酒に強くなった………と思う。私は何故か毎回、飲み会の後にリンクくんに回収されているけど。
リンクくんと一年ちょっとかけて視察して回ったハイラルの十五箇所に鳥望台が出来た。(途中、厄黙の世界線に行っていたから予定が延びた)未だ起動させるには至っていないけれど、間もなく監視砦の鳥望台を起動させる準備が整うとプルアがつい最近言っていた。
視察の旅が終わってからも度々ゼルダ姫のハイラル巡視に護衛として同行していたリンク君の英傑の服が新しくなった。何となく覚えている『新式』の英傑の服ではなくてデザインは以前のものと同じだけど、それだって新しいものを準備するには手間と労力がかかる。ゼルダ姫………やっぱりリンクくんのこと想ってるよね………ってちょーっとだけ複雑な気持ちになった。リンクくんの気持ちを疑ってるわけじゃないし、ゼルダ姫の想いを否定する気もない。ただ、自分に自信がないだけ。
ん………ちょっとじゃないか。
だいぶ………複雑だ。
そして一つ一つのピースが少しずつ私の記憶にあるものと一致し始め、ついにハイラル城の地下から瘴気が出ていると言う報告があがってしまった。その原因を調査するため、ゼルダ姫自らがリンクくんを伴ってハイラル城の地下に向かうことになったのだ。
私にとってこの世界はもう現実なのに、残酷だ。
結局、私が知っている未来へと事が動きはじめた。
「ナマエ、どうしたのよアンタ。難しい顔してるわよ?そんなに心配なら、一緒に行けばよかったじゃない。城の地下から瘴気が漏れてるなんて………物騒な話だけど、アンタならリンクと二人で戦えるでしょ」
「プルア………」
「監視砦のデッキから見てるだけじゃ、何にもならないわよ」
「ん………まぁそうなんだけど。ゼルダ姫の護衛はリンクくんが十分勤めてくれるだろうし、私はここで待つよ」
「ま、アンタがそう言うならいいけど」
遠目にハイラル城へと向かって消えていく二人の後ろ姿を目に焼き付ける。
あの男が………ガノンドロフが復活する時に、きっと私は邪魔だ。イレギュラーな存在が入る事で、知っている道から外れて最悪な結末を迎えることだけは避けたい。だから、リンクくんには知っていることを『話さない』ということを話した。それがきっと、最善だと信じて。
この日、ハイラル城が地鳴りと共に空に浮上し、ハイラル各地の空に遺跡群が現れ、そしてリンクくんとゼルダ姫が行方不明になった。
私が知っていた『物語』の通りに。
***
……………で、それから一週間。
浮上したハイラル城を見て、やっぱ物語が始まるのかとどよーんとした空気を背負ってたら「鬱陶しいからナマエはとりあえずプルアパッドの調整してなさい。調整中の二台目がうまく起動したら、それ、ナマエにそのままあげるわ」とプルアに言われて、それ以来ずっとラボに篭りきりになっている。
リンクくんと私の視察の旅の頃から少しずつ調整を重ねてきたプルアパッド。めでたく正規品として認められた一台目は、少し前にゼルダ姫の手へと渡った。私が調整している二台目は、正確に言うと二台目と言うより視察の旅の時から使っていたものからデータを引き継いだもので、視察旅の途中に撮影したウツシエや、厄黙の世界で撮影したウツシエも入っている。
だから何としてでもうまく起動させたくて、それに、何かに集中してないと不安に押しつぶされそうで「程々にしときなさいよ」とプルアに心配されるぐらい調整作業に没頭している。
私が知っている通りなら、リンクくんは今ごろ空に現れた浮島にいる。右腕、いきなりもぎ取られるってエグいよね。ラウル王の右腕を貰うことで命は落としていないはずだけど………本当に大丈夫だよね?リンクくん本人が戻ってくるまでは安心できない。
「ナマエ」
そしてゼルダ姫は………。
ぎゅっと心臓が苦しくなって、思わず胸の辺りを掴む。彼女の覚悟に、その深い愛情に、私の存在は邪魔なんじゃないだろうか。
「ナマエ?」
私は、消えてしまった方が良いんじゃないだろうか………。
「ナマエってば!!聞こえてんの?!」
「え、あ、プルア?!………わわっ!」
ガタガタガシャーンッ
プルアの声に驚いてばっと身体を起こしたら、バランスを崩して、何かに引っ掛かって後ろ向きに倒れた。その辺にあったものを巻き込んですごい音をさせてフロアに後ろ頭を打ちつける。
「っいったぁーっ………」
「何やってんのよアンタ。受け身取りなさいよ。ってか、いじってたプルアパッド二号は無事?………あ、大丈夫みたいね」
痛みに悶える私に呆れた声。
ひどいよプルア。
私よりもプルアパッドの心配かいっ!
むーっとして身体を起こすと、そのプルアのむこうに、もう今から考えると五年以上前に、画面の中で見たあの衣装で、笑いを堪えながらこっちを見ているリンクくんがいた。
「一週間ぶりだけど相変わらずだねナマエさん。ぶつけたところは大丈夫?」
「へっ………あ、うん……………リンクくん?」
「うん」
「………幽霊じゃないよね?」
「それ、さっきプルアにも聞かれたよ。幽霊じゃないよ。ちゃんと生身。右腕は………俺のものでは無いけど」
苦笑しながらリンクくんが私の前まで来て、左手を差し出す。その手を取ったら、すぐにぐいっと引き上げてくれた。そしてそのまま、きゅっと強く手を握られる。
「ナマエさん、教えて欲しい事がある」
「……………何?」
「ゼルダ姫は無事?」
「!………何処にとは聞かないんだね」
「それは俺が自分で見つけなきゃいけない答えなのかなって思ってる。だけどもし教えてもらえるなら、ゼルダ姫が無事なのかどうかだけでも知りたい」
リンクくんの真剣な声に、真剣な表情に、ぐっと心臓が痛くなる。
大丈夫、これは伝えても大丈夫なはず。
「私が知っている通りなら、無事だよ」
「………そっか。………良かった」
ほっとした声音に、また心臓が痛い。
気を紛らわすように握られた手を離すように促し、リンクくんから少し距離を取る。何だか……さっきからリンクくんの右手が怖い。前知識で初代ハイラル国王のラウルのものだと知っているはずなのに、何だろう。この私の中にある違和感は。
「ナマエさんはこの右腕のこと知ってるみたいだね。……………ナマエさん?」
リンクくんの右腕を凝視している内に冷や汗が出てきた。何でだろう、この右手が怖い怖い怖い、忌々しい!
ふっと感情が抜ける。
「ナマエさんっ!!」
「ナマエ?!」
リンクくんの何かを制止する声とプルアの焦った声。気がつけば焦った顔のリンクくんに右腕を掴まれていた。
あ………れ………?私、今何しようとした?
掴まれた右腕。
視線をやれば、私の右手は愛用の残心の小刀の柄を握っていた。
「わ………私、今何を………」
「ナマエさん」
「え………嫌っ!!」
「!」
伸ばされた右手が怖くて、思わず反射的に弾いてしまった。目の前で起きたことに、ショックを受けた顔をするリンクくん。私も理解が追いつかない。呆然とそのまま見つめあっている内に、リンクくんの空色の瞳からぼろっと涙が溢れた。
「ナマエさんに嫌われた………」
「えっ、ええっ?!違うの、今のは違う!」
慌てて弁明するも、リンクくんはしゅんっとしたまま。相変わらず童顔だから歳を重ねても涙目に違和感ないな!
「リンクくんのことは大好きなんだよ!」
「本当に………?」
私の言葉に恐る恐るまた右手を伸ばしてきて………
ばしぃっ
今度は思いっきり叩いてしまった。
完全に条件反射。無意識に。
「あー………えっと………」
「……………」
すんっと目の前のリンクくんの表情が消える。
手を伸ばす。
弾く。
手を伸ばす。
叩く。
手を伸ばす。
また弾く。
何度か繰り返したところで、ようやくリンクくんの動きが止まる。
「………ナマエさん、俺のことやっぱり嫌いになっちゃった?」
「ち、違うんだって!条件反射!何だかわからないけど、その右手が怖いの!誰のものかもわかってるのに……何で……………忌々しい」
「ナマエさん?!」
「って……私、何を言った………?」
ぞくっと背筋が冷える。
私じゃ無いナニカが、私の中でリンクくんの右手に反応してる。
「これは………調べてみる必要がありそうね」
目に涙を溜めているリンクくんと、呆然とする私。
冷静なプルアの言葉が、妙に部屋に響いて聞こえた。
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