間違って呼んだ
汝の名を応えよ
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「な、なんだこれ……」
「すごいんだゾ……」
目の前のテーブルに並べられたご馳走に、開いた口が塞がらない。
学園長が調理中、二階から匂いを嗅ぎつけてきたグリムも空いた口が、塞がらないようだ。
ついでにグリムはヨダレも垂れていた。
テーブルに並べられた料理は、ミートボールスパゲティに、きのこのハンバーグ、野菜たっぷりのサラダ、コンソメスープ。
まるで小学生の好きな給食ランキングで1位を取りそうなメニューだ。
立ち上がる湯気と、キッチンに立ちこめる匂い
を前に、私とグリムは、ゴクリと生唾を飲み込んだ。
「ふふん、言ったでしょう?料理には少々自信があると」
エプロンを身につけた学園長は調理前と変わらず、自信に満ち溢れている。
「食べる準備をしましょう」といいながら、お鍋で炊いたご飯をよそいでいく姿は、パパではなく、ママと呼びたくなってしまった。
「ほらほらマコトくん、グリムくんも席について」
「早く食べるんだゾ〜〜〜」
「いやでも見た目は完璧で、味はアレとかいう展開も……」
ブツブツと呟きながら、椅子に腰をかける。
独り言が聞こえたのか、ふふっと穏やかに笑う学園長の眼差しは、母性に溢れていて少しドキッとした。
「味は食べればわかりますよ、さぁどうぞ」
箸を渡された。
遂に運命の時…。
私は目の前にあった、きのこハンバーグにそっと箸を入れる。
肉の間から、ジュワァと肉汁が溢れ出てきて、デミグラスソースと、混じりあっていく様子は実に官能的だった。
その美しさは、どんな言葉でも言い表せないであろう。
美味しそうな匂いが息をする度、匂いが脳をグズグズに溶かしていく。
私はせりあがってくる激情を、なんとか押しとどめた。
「い、いただきます……」
控えめに挨拶をする。
一口サイズになったハンバーグ。
食うことに数秒戸惑ったが、腹を括った私は、パクっと口に入れた。
「うっ」
「うっ?」
「うっゔま゙い゙ぃ゙ぃ゙ぃ゙っ!!!」
あまりの美味しさにテーブルに突っ伏した。
勢いが良かったので、ゴツンッと良い音がなった。痛さなど、ハンバーグの美味しさにくらべたら、些細な事だった。
ゔわ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ん!!このハンバーグすごく美味しい!!めちゃくちゃおいしい!!予想を遥かに超えてきた!!
お肉めっちゃおいしい!デミグラスソースは懐かしい味がする!なんだこれ!!!
学校の学食も美味しいけど、なんというかこれは家庭的な味!!お母さんのご飯の味がする!!胸が苦しい!すごくホームシックになる味。
アレどうしてだろう……涙が止まらない……
「ウッウッゔっうぅ」
「マコトくん大丈夫ですか?」
大丈夫じゃない!!アンタのせいで胸がギュッとして、息もままならない!!涙で顔ぐっちゃぐちゃだろうから、顔もあげれない!!
ズルズルと鼻水がでてきて、酸素が足りない!
「と、取り敢えずティッシュをどうぞ」
「これ!めちゃくちゃ美味しいんだゾ!!」
「こらっ!!グリムくん!はしたないですよ!!きちんとスプーンを使いなさい!」
学園長から貰ったティッシュを貰って涙を吹き、チーンっと鼻を吹いた。目の前では、皿に直でがっつくグリム。とグリムを叱る学園長。
その様子は幼児と母親そのもの
なんだろう久しぶりに、アットホームな光景でまた涙が出そう。
涙が出る前にコンソメスープを一口飲む。
「……美味しい」
これは胃と胸が同時に、じわぁと温まる美味しさだ。
素朴という訳ではないけど、優しい味。
スープの温かさで落ち着いたのか、せりあがってきて、こぼれ落ちそうだった涙が落ち着いた。目元はまだ少し熱いし、鼻もツンと痛むが、気持ちは実に穏やかだった。
「(パパ…か)」
かくしてこの日、私は遂に学園長に命の手綱だけではなく、胃袋までガッチリと掴まれたのだった。