「お待ちなさい。 まだ話は終わっていません」

学園長はお肉を取られないように一歩身を引くと、続きを話し出した。

「実は私独り身なんです。 それも長い間。可哀想でしょう？」
「へ？あっそうですね」
そうなんだ。可哀想なのかは知らないけど。
適当に返事をする。

学園長は私の適当な返事も気にならないのか、必要ないのか、話を続ける。

「独り身というものは、食事も1人で用意しなきゃいけないんですよ。こう見えて私も、貴女と同じように自炊してるんですよ」

まぁ独り身だからねぇ。
でも意外だ。学園長ならなんかこうお手伝いさんにご飯を作って貰ってるイメージが強かったから、もしくは外食だとか、魔法でパパーッとか……

「それ故に私は少しばかりか、料理の腕には自信がありましてねぇ」

へぇそうなんだという、感想しか出てこないよもう。
学園長の話は長々たらたらと、勿体ぶって話すので正直面倒臭い。
直球に言って欲しい。

「勿体ぶらずに直球に言ってください面倒臭いので」
私はハッキリと伝える。
学園長はそうですかとニコリと笑うと、「ではお望み通りハッキリと言いましょう」ゴホンと咳払いをした。

「……私の料理食べてみませんか？」


最初からそういえばいいものを。
学園長の料理……どんな料理が出てくるかという点については、ある意味、気になるところではあるが。
学園長の手料理が食べたいかというと、これとそれは別の話な気がする。
なので正直に言おう。

「いや別に食べたくな…」
「課題に追われ、グリム君を追い、少々個性的な生徒に振り回されて、愛しの我が家に、くたびれて帰ってきたらとおもったら、家事をこなすなんて……とぉってもお疲れでしょうマコトくん」

私が、最後まで言う前に、学園長が話し始めたところをみると、どうやら私の話を聞く気は無いらしい。

まぁ、学園長に言われたことはその通りだ。
毎日毎日何かに追われて生きているようで、たまに全てを、放り投げてしまいたい時はある。

学園長の言葉に私の心が少し揺らぐ。


「私が一つ家事を減らしてあげますよ？なんなら食料も私が買い与えてあげますし、夕飯だけですが、お料理してあげます……」

「はいはい。そこまでして、学園長は私に何をして欲しいんですか……」

流暢に話していた学園長がビクンと肩を震わせると、モジモジしだした。

え、なになにさせられるの私。
不安をよそに、学園長のお願いというのは、私には理解し難く、へんてこりんなものだった。

「このオンボロ寮にいる間だけは、『パパ』と呼んでくれれば……」
「は？」

何？私にパパって呼んで欲しい？
揶揄ってたんじゃなくて、マジで呼んで欲しかったの？女子生徒から？正気？

そう意味をこめて軽蔑の視線を送った。
意味が通じたらしく、学園長は焦って弁明しだした。

「ゆ、優秀な教育者の私とて、愛を求めるんですよ！！安らぎを！！一人でご飯を食べるのだって寂しいんですよ！？それに折角一緒に、ご飯を食べるのに、学園長♡マコトくん♡なんて悲しいじゃないですか」

「うっでも」

はっきり言うと呼びたくねぇ！！ってか一緒にご飯食べるのもどうかなって感じなんだが！
いやでも客人をよそに、グリムと二人で食べるのもあれだけど。日本人の性なのか、申し訳ない気分になる気もする。


「……別に急いで決めなくても、良いですよ。私の料理を食べてからでも良いです！！」

自信満々に言う学園長は、次々とゴテゴテした衣装を脱いでいく。どうやら本当に料理をするようだ。
マント脱ぐ所を見ていて思った事だが、意外と学園長は細い。
袖を捲った所から見える、筋張った腕、帽子を取って見える後頭部の丸みは、人間みを感じた。普段着が、人外みにあふれているから、ラフな格好になるとすごく親近感湧く。とくに仮面が見えない、後ろ姿。


「マコトくん、エプロン貸してください」
「あっはいエプロンですね、どうぞ」

私からエプロンを受け取ると、器用にキュッとリボン結びをし、フライパンを手に取った。
パチンッと指を鳴らせば、テーブルにドサリと沢山の紙袋が、わ！！本当にたくさんのお肉と野菜！！

「私の料理で、貴女の胃袋を掴んでさしあげましょう！！」

かくして学園長のお料理の時間が、開始したのだ！！