始まりは唇から 鹿猫
ー…消してやりたい。あいつを。この世界も、昼も夜も。僕を煩わせ狂わせる全てを壊してやりたい。あいつを、ジェームズを殺してやりたい。
スネイプは荒々しく歩きながら、1時限目の授業に行くため校庭脇の遊歩道を歩いていた。途中、ひらひら飛ぶ蛾を杖で粉々に砕いた。
今やスネイプは憎しみで心を満たしていた。涙を流した後、胸に残ったのは純粋な憎悪と殺意だけだった。
「くそっ!スニベリーのフォークが1本刺さった」
シリウスはローブに開いた穴をリーマスに直してもらっていた。
呪文を唱えるリーマスは不機嫌そのものだった。
「シリウス…それからジェームズも、君たちはやりすぎだ。セブルスは何もしていないじゃないか。これ以上ちょっかい出すのには僕は賛成しない」
リーマスは蔑まれる痛みを誰よりも知っていた。痛みを与えられる苦しみを誰よりも知っていた。
シリウスは言葉をつぐんだ。
ジェームズは全く上の空だった。
「ピーター、次の授業は?」
出し抜けにジェームズはピーターに聞いた。ピーターは飛び上がって、羊皮紙を落としながら答えた。
「え、えっと、薬草学…一番新しい温室で…合同…」
「どこと?」
「ス、スリザリン…」
答えながら恐る恐るジェームズを見た。
ジェームズは一点を見つめたまま奇妙な笑みを浮かべていた。
「ジェームズ?」
リーマスがそっと呼んだ。嫌な感じがする。リーマスは何かを感じ取っていた。
ジェームズがリーマスを見た。そしてふらりと立ち上がった。
リーマスはとっさにジェームズの袖を掴んだ。
ジェームズが穏やかに笑顔を見せると、ゆっくりと袖を引き、手を離させ歩いて行った。
「シリウス!行こう!何だか…」
リーマスはシリウスに訴えた。
シリウスは何が何だか分からないといった顔をしている。
「ジェームズが…」
急いで本を束ねる。
「何だよ恐い顔して、ジェームズがどうかしたのか?いつも通り懲りずにいたずらでもしに…」
シリウスが言い終わらない内にリーマスはシリウスの腕を掴んで走り出していた。
「何のつもりだ?ポッター」
ジェームズはスネイプの前に立っていた。すでにスネイプは杖を出し、ジェームズを睨みつけている。
「分からせてあげようと思って」
ジェームズは微笑んだ。
スネイプはうんざりだとばかりに背を向けると、逆方向へ歩こうと足を進めた。