始まりは唇から 鹿猫
「セブルス、顔色が悪いんじゃないか?」
ルシウスがスネイプの顔を覗き込んだ。
「いえ…すいません」
スネイプは手をつけていないシリアルにスプーンを入れるしぐさをした。
「君には一目置いているんだセブルス。心配させないでくれたまえ」
ルシウスは隣に座り、スネイプにベーコンと卵を乗せた皿を作るとスネイプの前に静かに置いた。
「…すいません」
スネイプが呟いた。
「ありがとうと言うんだよ。こういう時は」
ルシウスはくすりと笑うとスネイプの髪を軽く撫で、席を立った。
ジェームズはその様子を遠くから見ていた。そしておもむろに立ち上がると、スネイプの元へ歩き始めた。シリウスも面白そうに並んだ。
「や、スニベルス。お子ちゃまは一人でご飯も食べ…」
ジェームズは最後まで言葉にすることができなかった。
スネイプは静かに涙を流していた。
疲れきった顔は青白く、表情を作る気力もなく、ただ虚ろな目でジェームズを見つめたまま涙を一筋流した。
そして声を震わせることもなく、静かに冷たく言葉を紡いだ。
「ポッター…僕は疲れた。もう、僕に構わないでくれないか?姿も見たくない。僕はもうお前を見ない。お前ももう終わりにしてくれ」
スネイプは立ち上がり、背を向けて歩き始めた。周囲がざわめく。
シリウスが大声で笑い、杖で頭から水をかけた。
「泣き顔似合うぜ!」
黒髪から雫が落ちている。しかしスネイプはびしょ濡れのまま、すがすがしいほど胸を張り、杖を出し、シリウスにフォークの束を飛ばした。
スリザリン側から賞賛の口笛が2,3聞こえた。
ジェームズは呆然と立ち尽くしていた。
「嫌われちゃったね?」
リーマスがいつの間にかジェームズの隣にいた。
「君が素直じゃないから…」
ジェームズはゆっくりとリーマスに向き直った。
リーマスはその目を見て、一瞬たじろいだ。
「まさか…。終わるわけないだろリーマス。僕はこんなにセブルスを愛しているのに」
そう言ってにっこりと笑った。
「ジェームズ…?」
リーマスは危険なものを見ているような気がした。