始まりは唇から 鹿猫
スネイプは暗がりの中でジェームズの肩口にもたれかかっていた。
そしてさりげなく頬に手を伸ばした。昼間傷つけたはずの頬へ。しかし、その手は滑らかな頬を撫でるだけだった。
「どうしたの?」
ジェームズが尋ねる。スネイプは首を振った。
「いや、なんでもない」
そう言って目を伏せた。
ー…何を期待していたのだろう自分は。これがあのジェームズであるはずがない。昼間僕を侮辱し、呪い合ったジェームズであるはずがない。
ジェームズであって欲しかったのか?あの憎いジェームズであって欲しかったのか?
憎い…。憎いのか…?僕はジェームズを憎んでいるのだろうか。
「ジェー…いや、お前は誰なんだ?」
スネイプが目を開けてジェームズを見上げた。
スネイプの表情は苦悶に満ち、激しい頭痛に耐えているようだった。
その表情に胸が痛むのを感じながらもジェームズは微笑み、スネイプを抱き締めようとした。
「…!!」
しかし力いっぱい突き飛ばされていた。
ジェームズは目を見開いてスネイプを見た。スネイプは苦しげに息をついてジェームズを睨みつけていた。
「もう、たくさんだ…僕を弄ぶなッ!!…もう…たくさんだ…。もう、来ないでくれ…」
スネイプはうなだれた。
荒々しく息をしている苦しげな姿をジェームズは呆然と見つめた。
その瞳には絶望しか映っていなかった。
昼と夜の間で、光と闇の間で、嘘と嘘の間で限界を迎えた。
もう、どちらもスネイプには苦痛でしかなかった。
自分が壊した事実にジェームズは明らかにショックを受けていた。透明マントをすばやく被ると部屋を飛び出した。
ー…セブルス…僕たちはどこで間違えた?僕はどこで間違えた?あの時から?君を好きなことに気付いたのはいつからだった?
半ば夢中でグリフィンドールの談話室を横切ったが、何かにつまずき盛大に転んだ。
「リーマス!?」
そこには冷ややかな顔をしてジェームズを見下ろしているリーマスがいた。