始まりは唇から 鹿猫
「いっそ殴りあいでもすればいいのに…」
リーマスは晴れた空の下でジェームズに言った。
ジェームズは笑った。
リーマスはその笑顔にどこか寂しさがあるのを見逃してはいなかった。
「リーマス、僕はね、あくまでもこの魔法力でお話しがしたいんだよ…」
そう言うと杖をくるくるともてあそんだ。
ー…リーマス、君は知らない。僕の嘘を。もう、彼に触れることはできないんだ。触れれば気付かれてしまう。セブルスは僕に化けてる誰かだと思って触らせてくれる。それがそのまま僕だってことに気付いていない。
もし気付かれたら…そうしたら僕は嫌われてしまう。そうだろう?セブルスが受け入れているのは僕に化けた誰かなんだから。
だから、昼は悪魔になってあげる。それが激しいほど夜は甘くなるんだ。彼は僕を求めてくれるんだ。
「やあ!スニベルス!今日は何して遊ぼうか?」
スネイプは人気のないトイレの壁にもたれかかっていた。そのままズルズルと崩れるように座り込んだ。乾いたタイルが心地良い。
杖を取り出し、バラバラになった本を修復する。
「変身術~その見分け方と…」
途中途中がベタベタする液体で見えない。
スネイプは忌々しそうに杖を何度も振り、1ページ1ページその呪いを解かなければならなかった。
結局何の情報も得られなかった変身術の本を1ページめくるごとにジェームズへの憎しみが重ねられてゆくようだった。
延々と同じ作業を繰り返しながら思いを巡らせた。
ー…なぜ昼も夜もジェームズに付きまとわれなければならないんだ。なぜあいつはあんなに僕にしつこいんだ?何もしていないのに…。
ページをめくる手を止めるとふと、温かく力強いジェームズの腕が思い出された。それは優しく、微笑みさえ溶けるほど甘く自分に向けられている。
ー…僕はついにおかしくなったのだろうか?それとも…。僕はジェームズのことが…。
スネイプは邪念を振り払うように必死でページをめくった。