始まりは唇から 鹿猫
「どういうことですか?校長?」
ジェームズが口を開いた。
ダンブルドアはジェームズを見つめた。
「うむ。君たちは本来ならば退学じゃ。明日にはここにいられなくなるじゃろう。しかし、ある決め事によって、君たちはここに残ることができるようになった。君たちの運命を一つ、わしが決めさせてもらう」
ジェームズはダンブルドアの青い目に射抜かれ、その先の言葉を待った。
「ジェームズ・ポッター。君たちの関係は知っておる」
ダンブルドアは突然言った。
ジェームズはスネイプを見た。スネイプはダンブルドアを凝視している。
「わしは、君たちの関係を認めておるし、それに関しては黙認し続けようと思う。しかし…」
ダンブルドアは目を閉じた。
スネイプはその顔に一瞬、深い悲しみが浮かぶのを見たような気がした。
「ジェームズ・ポッター。君は卒業後、ある女性と結婚し、家庭を築かなければならん」
一方的な言葉だった。それは、頼み事や伺い事とは全く違う、命令だった。
「……は?」
ジェームズが間抜けな声を出した。
言われたことの意味を理解するのに数分かかった。
「えっと、先生…それはつまり、その…、そのままですよね?それって、つまり…」
考えたくもない言葉を言わないよう、戸惑いながらスネイプをちらりと見た。
ダンブルドアは深く頷いた。
「それはできません」
きっぱりと言った。
「君に選択権はないんじゃよ、ジェームズ」
ダンブルドアは冷たいほど静かに言った。
「それなら僕を退学にしてください」
ジェームズが言い放った。
ダンブルドアが首を振った。
「僕を退学にしてください」
ジェームズは尚も言った。
「セブルス・スネイプ」
ダンブルドアはスネイプを見た。スネイプは怯えたようにダンブルドアを見た。
「先生!!」
ジェームズが大声を出した。
「君はその時が来たら、自ずと分かるはずじゃ」
ダンブルドアはスネイプの目をじっと見つめた。
スネイプは一歩下がった。
「先生!」
ジェームズはダンブルドアに掴みかかる勢いで机に乗り出した。
ジェームズは完全に取り乱していた。
スネイプはジェームズの腕を掴んだ。
「…ジェームズ…」
静かな声にジェームズは我に返った。
雨が激しく窓に打ち付ける音だけが部屋に響いた。
二人は無言で校長室を後にした。