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始まりは唇から 鹿猫


「セブルス、ここ教えて」

ジェームズがスネイプの前に座り、課題を広げて言った。
スネイプは顔をしかめながら、静かに過ごさなければならない図書室であることを忘れ、厚く大きな本をバシンとジェームズの前に落とした。

ジェームズはにこにこしている。

「何ページ?」

ジェームズがスネイプを見た。スネイプの眉間に皺が寄った。

「275ページ!」

うっとおしそうに言い放つ。ジェームズはそのページをめくりながら「どこの部分?」と懲りずに聞いた。

スネイプは不機嫌そうにページの上の方を指差した。その手をすばやく捕まえる。
スネイプが頬を赤らめ、バッと手を振り解いた。

その様子をシリウスは死んだ目で見つめていた。周囲も皆、見て見ぬふりを決め込んでいる。

「リーマス…ジェームズがおかしいぞ。あの時、こっちまでやられたのか?」

自分の頭を指差しながら言った。
リーマスは相変わらずくすくす笑いながら、羽ペンにインクをつけている。

「あれが、ジェームズなのさ」

楽しそうに言うと、羊皮紙に向かった。

シリウスは別のものを見ようとムキになって教科書を開いた。

「ジェームズ・ポッター。セブルス・スネイプ」

マクゴナガルが静かに二人の前に立っていた。

「来なさい」

マクゴナガルはそれだけ言うと、二人が立つのを待っていた。
ジェームズとスネイプは顔を見合わせ、神妙な顔つきで立ち上がり、マクゴナガルに着いて図書室から出て行った。
事の成り行きを見守っていた周囲の生徒たちがざわざわし始めた。
シリウスとリーマスも不安そうに顔を見合わせ、扉を見つめた。


「ゲロ飴」

マクゴナガルがガーゴイルの前で言った。
ジェームズは思わず噴き出したが、マクゴナガルに睨まれすぐさま口をつぐんだ。

「行きなさい。校長先生がお待ちです」

マクゴナガルは二人を通すと背を向けて歩き去った。

ジェームズとスネイプは校長室に入った。

ダンブルドアは机の向こうへ座り、こちらを見ていた。
背後の窓に雨が打ち付け、それだけで嫌な予感を漂わせている。

「体はどうかの?ジェームズ?セブルス?」

ダンブルドアが穏やかに聞いた。

ジェームズはごくりと唾を飲み込んで答えた。

「もう、大丈夫です。すみませんでした」

セブルスも次いで同じ言葉を言った。

ダンブルドアは頷いた。

「さて、君たちを呼んだのは他でもない。今回の事件での君たちの処遇についてじゃ」

ダンブルドアの目が二人を見た。

「大事な話じゃ。よく聞いてもらいたい」

ジェームズとスネイプは身を硬くした。

「二人とも退学はなし。処罰もなしじゃ」

ダンブルドアは笑わずに言った。

二人は思わず顔を見合わせた。

「ただし」

ダンブルドアは続けた。

「言っておくが、本来ならば退学じゃ。君たちを退学にする代わりにわしは君たちの未来を一つずつもらうことにした」
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