始まりは唇から 鹿猫
ー…体中が痛い。
ジェームズは目を開けた。
「…生きてる」
ぼんやり呟くと首だけ動かして周囲を見渡した。
ー…暗い…。夜かな…?セブルスは?
ジェームズは起き上がろうとしたが、体中が軋み、そのままベッドへ身体を押し付けた。
横たわったままスネイプを探すと、隣のベッドに白い横顔があった。
「セブルス…?」
小さな声で呼びかけた。白い顔は微動だにせず、深く閉じた瞼は青白い。月光が当たっているせいなのか、それとも…。ふと恐ろしい考えが脳裏をよぎった。
「セブルス…!」
もう一度呼びかけた。返答も反応もない。覚悟を決めて体の痛みを確かめながらゆっくり起き上がると息をついた。体のあちこちから薬品の匂いがする。手や腕には軟膏が塗りたくられているようだった。
ジェームズはめまいを抑え、着せられただぶだぶのシャツを指でつまみ、胸元から腹まで傷の具合を調べた。しかし、暗がりでは何も見えず、薬の匂いがするだけだった。
「セブルス」
横顔に向かって呼んでみる。
スネイプの横顔は大理石のように蒼白だった。
ジェームズはスネイプの閉じた瞼が開くのかどうか確かめたい衝動に駆られた。
もし、開かなかったらどうしよう…。そんな恐怖だけがジェームズを動かした。
「セブ…」
名を呼び、ゆっくりとベッドから降りる。めまいと痛みで倒れないよう、ベッドにしがみつくと息を整える。
ようやく痛みに慣れ、ふらふらと立ち上がるとスネイプの頬に手を伸ばした。
ー…温かい…。
ジェームズはスネイプの頬に温度があるのを確認すると、そのまま首筋に手を這わせ、弱々しい鼓動を感じ取った。
スネイプの瞼がゆっくりと開いた。
しばらく宙を見つめ、何度か瞬きをした。どうやら記憶を辿り、状況を把握しているようだった。そして、自分の首に添えられている手の持ち主を見上げた。
「ジェー、ムズ…」
掠れた声で呟いた。
「なぜ、泣いている…?」
ジェームズは泣いていた。
スネイプの呼びかけにも答えずにただ泣いていた。
スネイプは目を閉じて言った。
「この手…僕はこの手が好きだ」