氷砂糖 鹿猫
3人はしばらく無言だった。
沈黙を破ったのはシリウスだった。
「スネイプ、その犬どうした?」
セブルスは腕の中の犬を見つめたまま言った。
「森で迷って蜘蛛の化け物に襲われていた」
シリウスは箒を操り、近寄って犬を覗き込んだ。
「なんだ、寝てんじゃねーか!しかもこれハグリットの犬だぜ」
「そうなのか…」
セブルスは無気力に答えた。
「貸せよ」
シリウスがぶっきらぼうに言った。
セブルスがシリウスを見た。
「ハグリットのところへ届けてやる。お前たちは、その、いろいろ話すことがあるだろ?」
シリウスが手を伸ばす。精一杯の気遣いだった。
セブルスは素直に応じた。子犬を渡しながら「礼を…言う、ブラック…」ぽつりと言った。
「よせよ、お前に言われたら、雷に撃たれちまう」
シリウスはそう言うなり箒の向きを変え、急降下していった。
静かな夜だった。
ジェームズはゆっくり飛びながらも、ずっと一言もしゃべらない。
気まずい沈黙が流れた。
「セブルス…」
ジェームズがようやく口を開いた。セブルスは黙っている。
ジェームズは腰ではなく、あくまで服を掴むセブルスの手を取って自分の腰に回したかったが、おそらく跳ね除けられるだろうと思い、手を出さずに話し始めた。
「セブルス、聞いて欲しい。誤解させてごめん。ホントに…ごめん。あの、マーガレットはクィディッチの後輩なんだ。僕によく懐いていて…。信じて欲しい。お願いだ…。僕が愛しているのはセブ…君一人だ。…だから、嫌わないで」
ジェームズの弱々しい声に、セブルスは目を閉じた。
「この、手も、この胸も、この身体も、それに心も…、セブ、全部君のものなんだ…。だから、嫌わないで…。僕を許して…」
あまりにも切なそうな声に、セブルスはおずおずと腰に手を回した。
ジェームズが右手でそっとセブルスの手を取った。必然的にセブルスは前のめりになり、ジェームズの背中に接した。
そっと背中に頬を押し付け、体温を感じ、鼓動を感じる。
愛しくてたまらなかった。
「…覚えておけ、ポッター」
セブルスはジェームズの確かな鼓動を聞きながら背中に頬を押し付け、そして一度だけ両腕でジェームズを抱き締めた。
「え?」
「僕を、僕の感触を覚えておけ、ポッター」
「うん…うん」
ジェームズは目を閉じた。
抱き締められる心地よさに酔う。
「忘れるものか…絶対に忘れないよ…」
ジェームズは片手を離し、上半身を捻り、振り向くとセブルスを見つめ、唇を重ねた。
end.
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