アイリス 鹿猫
「出ていけ」
目がギラギラと光っている。
ジェームズは真っすぐにトビアスの血走った目を見つめた。
「今すぐ理解してもらおうとは思っていません。ただ、知って欲しい。僕たちが愛し合っていることを、僕たちが結婚したがっていることを…。認めてほしいんです」
「今すぐ出ていけ」
「いいえ…」
「言葉が通じないのか…?」
「いいえ」
ついにトビアスが癇癪を起こした。
椅子を倒して立ち上がり、カップの紅茶をジェームズにかけ、壁に投げ付け粉々に割った。
「ジェームズ!!」
セブルスが立ち上がった。
ジェームズは頭から紅茶の雫を垂らしながら、トビアスをじっと見つめている。
トビアスは近くにあった大きな花瓶を掴むと振り上げた。
「あなた!!」
アイリーンが杖を出し、トビアスに突き付けた。セブルスもまた気が付くと、トビアスに杖を向けていた。
二方向から杖を向けられ、トビアスは一瞬たじろいだ。
「セブルス、あなた何の呪文を使おうとしているのかしら?」
アイリーンが落ち着いた声で言った。
「手がペンギンになる呪いです」
「そう…あたしはタコ足にする呪いよ…トビアス…あなたの3秒後の姿よ。なかなかポイントの高いモンスターになると思わなくって?」
トビアスは歯軋りしながら、花瓶を元の台に戻した。
カチコチという時計の音だけがする。
四人は再び座っていた。
「お義父さん」
「ぶっ殺すぞ!」
「あなた…」
「勝手にしろ!」
トビアスは立ち上がり、どかどかと階段を上がっていった。
「…あれでも我慢がきくようになったのよ…」
アイリーンがため息をつきつつ、ジェームズに顔を向けた。
セブルスがタオルでジェームズの頭を拭いている。その表情はいつにもまして堅く、涙を必死で堪えていた。
アイリーンはジェームズの紅茶の染みがついたシャツを見た。
「ごめんなさい…ジェームズ…すぐに洗濯するわ」
「僕こそすいません…怒られるのは覚悟していました」
ジェームズが微笑んだ。
「あたしはとにかく賛成よ、ジェームズ。これだけは忘れないで。何日でも結構だから、ゆっくりしていって頂戴…あなたさえよければ…」
「もちろんです、ママ・アイリーン!お義父さんとまだお話したいですし」
ジェームズはアイリーンに明るく言った。