アイリス 鹿猫
「ジョークじゃありません…」
トビアスの笑いを止めたのはセブルスだった。
眉を寄せ、わずかに目を赤くしている。
自分のために勇気を出し、堂々と宣言してくれたジェームズに申し訳なかった。そんなジェームズを笑った父が許せなかった。ジェームズを傷つけた家族が悲しかった。
「ジェームズが言ったことは冗談でも悪ふざけでもありません。僕達は本当に付き合っています。男性と女性がそうするように、付き合っているんです…」
セブルスの声は小さかったが、強いものを含んでいた。
「気でも狂ったか?」
トビアスが低い声で言った。少しずつ事態を把握しているようだった。
「いいえ、僕達は結婚します。彼のご両親にももう挨拶を済ませました」
二人は睨み合った。
「ちょっといいかしら…」
アイリーンが口を開いた。
低い声でのやりとりが続いたあとのその声は、雰囲気を一変させるほど鮮やかだった。
男三人が一斉にアイリーンを見た。
アイリーンは視線の中、余裕のある動きで紅茶を飲み干し、ティーポットを持ち上げると、冷めきってしまった紅茶をトビアスのカップに注ぎ、ジェームズに注ぎ、セブルスのカップを見たあと、最後に自分のカップに紅茶を注いだ。
セブルスは内心、母の態度に感服した。時とともに人は変わるのだと。
「ジェームズ」
アイリーンが言った。
「あなたの気持ちはよく分かりました。認めるわ。あなたたち二人が結婚することを」
「狂ってる!!」
トビアスがテーブルを拳で叩き、怒鳴った。
アイリーンはトビアスを見上げた。
「馬鹿か!?貴様等!何の茶番だ?貴様等のへんてこな世界ではそんな馬鹿げたことがまかり通るのか!?」
再び笑いの発作に見舞われ、トビアスは笑った。
三人は黙った。
ひとしきり笑ったあと、トビアスはジェームズを睨み付けた。