アイリス 鹿猫
アイリーンもトビアスも黙っている。
飾り気のない柱時計が無機質な音を立てた。
「トビアスさん…アイリーンさん…僕はセブルスと結婚したいんです。僕をセブルス・スネイプの結婚相手にさせて下さい…」
沈黙が流れた。
セブルスがようやく顔を上げた。頭を動かさずにアイリーンとトビアスを見る。
「………あ?」
トビアスが眉を上げ、ジェームズを見つめた。
ジェームズはトビアスの漆黒の目を見た。
「セブルスと僕はずっと恋人同士でした。学校を卒業したら結婚しようと約束したんです…今日はそのお願いをしに来ました」
ジェームズは静かにゆっくりと言葉を紡いだ。
突然トビアスが大声で笑った。
アイリーンとセブルスがびくりと顔を上げ、トビアスを見た。
トビアスは拳でテーブルを叩き、笑い続けている。
「…いやいや…こんなに愉快な奴だったとは!!最高のジョークだ!!」
身を捩り、こめかみを押さえ笑っている。それは次第に発作のように止まらなくなった。おかしくておかしくてたまらないようだった。
ジェームズはうつむいた。怒鳴られるのは覚悟していたが、まさか笑われるとは思わなかった。
膝の上で握られた拳に力が入る。
セブルスは唇を噛んで片手を伸ばし、ジェームズに手を重ねた。
トビアスの反応はまともだろう。
息子の男友達が、息子を嫁にもらいにきたのだから。
トビアスにとってそれは、あまりにも気の利きすぎた冗談にしか聞こえなかった。
男が真面目な顔をして言い出したことも、そのおかしさを増長させた。