アイリス 鹿猫
「おかえり、セブルス…あなただけ?」
きょろきょろと大きな翡翠色の目を周囲に向けた。
「いえ…ジェームズも一緒に…そこにいます」
セブルスはドアの横で頭を抱えてしゃがみこんでいるジェームズを指差した。
「あらやだ!あなただったの?あたしてっきりあの人にヒットしたと思ったのに…」
「ご無沙汰しています。マダム・アイリーン」
ジェームズはようやく立ち上がり、再会の挨拶をした。
「ママ・アイリーンがいいわ」
アイリーンはジェームズの耳元で囁いた。
「おい!!そいつをさっさと放り出せ!!」
トビアスが怒鳴った。
「あなた、彼はうちのゲストよ。歓迎してほしいわ」
「馬鹿も休み休み言え!!そいつが家のドアをぶっ壊したんだ!!あれを直すのにいくらかかったと思ってるんだ!!」
「3年前の話じゃないの。それにあなた、あたしずっと思っていたんですけどね、ご自分でドアを直されるのは結構よ。だけど、ドアは普通、内側から外側に開くものなの。どうしてあなたは外から内に開くように取り付けるのかしら。それだから蹴破ら…壊れてしまうのよ」
アイリーンの言葉にトビアスの顔が真っ赤になった。
「黙れ!!貴様等全員出ていけー!!!」
「お茶にしましょう」
アイリーンはトビアスの怒声をものともせずに、気軽な口調で二人をリビングへ連れていった。
ジェームズとアイリーンがキッチンに立っている。
セブルスとトビアスは椅子に座り、互いに口を利かない。もともと二人は口を利いたことがあまりなかった。
トビアスは苛立たしそうに腕を組み、足を揺すっている。
セブルスは居心地が悪そうにうつむき、空いた隣の席を横目で見ていた。
「ジェームズ、懲りずに家に来てくださってありがとう」
アイリーンがハーブを揉みしだきながら言った。
「いえ、僕こそ家に招き入れて下さり、感謝しています」
ジェームズはアイリーンの背後から腕を伸ばし、蜂蜜の瓶を取ると盆に乗せた。
「夕食も家で食べるわよね?四人分用意したの」
「はい。お言葉に甘えさせていただきます」
アイリーンはくすりと笑った。
「夜は乾杯しましょう。卒業のお祝いをしなくちゃ。それに何かお話があって来たんでしょうから…」
盆を持ち、先に歩きだしたアイリーンが振り返った。
その鋭い目にジェームズは緊張し、一礼した。