アイリス 鹿猫
「準備できた?」
「…ああ」
ジェームズは朝の光が一面に溢れる部屋にいた。
セブルスの腰を抱き、ハシバミ色の瞳は、朝の光を浴びて、どこまでも透き通っている。
やさしく細められた目は、遠くを見つめていた。
二人の片手にはたくさんの花が抱かれている。
「セブ…みんなから花をもらったね」
嬉しそうに目を細める。
「ああ…薔薇…クレマチス…シーマンニア…サンフラワー…ダンデライオン…たくさん…こんなに…」
セブルスは花たちにそっと口付けた。
ジェームズはその様子を眩しそうに見つめ、光の筋のようにきらめく黒髪に口付けた。
腰を抱く手にやわらかく力が入る。
セブルスは顔を上げた。
「ジェームズ…どこへ行くんだ…?」
セブルスの静かな声が部屋に染み込んだ。
ジェームズは微笑んだ。
少し楽しげにくすくす笑い、セブルスの耳に唇を寄せて囁いた。
セブルスが瞬きをして、ジェームズの顔を見上げた。
「足…まだ痛い…?」
「…いや…」
「…よかった…」
「ジェームズ…?」
「うん…僕たちは、にじのはしを渡る…きっとそこには痛みもなくて、愛だけがある。ねえ…セブ…全部、手放したら、何が残ると思う?この体とか、この言葉とか…この足も…手も…全部、あげられたらね、全部、超えられたらね、残るのは愛なんだ。愛だけになって、飛んで行くんだ」
夢を見よう
幸せな夢を
そうすればきっと
本当に幸せになれるから
「さあ…行こう」
end
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