アイリス 鹿猫


アーサーはジェームズとセブルスの方へ体を向け、杖を口元へ持っていった。
呪文を唱えると、杖を振り下ろした。

二人の足に絡みつき、裂傷を刻む呪いが解けてゆく。

アーサーは何度も杖を口元に持って行っては呪文を唱え、振り下ろす行為を繰り返した。


リリーも立ち上がった。

目を閉じ、祈るように呪文を唱えた。
優しい風が吹き、二人の裾を清めてゆく。

セブルスがリリーを見た。
リリーが目を開け、微笑んだ。


シリウスが立ち上がった。

杖を抜き、呪文を放つ。青い光はセブルスの足に刻まれた傷をふさぎ、消してゆく。

ジェームズはシリウスを見た。
そして見つめ合うと、しっかり頷いた。


リーマスがジェームズの足に光を放った。

痛みを刻む一歩一歩が軽く、確かなものとなった。

ジェームズが前を向いたまま、口元に笑みを浮かべた。その瞳は光によって自信に満ち、輝いた。




たくさんの呪文が歌のようになった。

溶け合い、響き合い、道を歩く二人を包んでゆく。

願いと想いが二人を支えた。



「誓いを!!」

マルシベールが杖を振りながら、神秘部の男に向かって叫んだ。

ジェームズとセブルスは彼らの前に辿り着いていた。

歌はそれぞれの役割を仕上げ、静かになってゆく。

エイブリーはマルシベールの肩に手を置いた。
そして神秘部の背の高い男と目を合わせた。
黒髪を後ろに撫で付けた背の高い男は、エイブリーと視線を交わし、軽く頷いた。
エイブリーが微笑んだ。


「誓いを…」

背の高い黒髪の男が、隣に立っていた小太りの男に告げた。
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