アイリス 鹿猫
「よせジェームズ。父は魔法を嫌っている…。それにここはマグルの世界だ…人間らしくふるまえ」
セブルスは根気よく呼び鈴を押したが、その傍らでジェームズが屈伸運動を始めた。
「ジェームズ…?」
「セブ…ちょっとどいて」
ジェームズの目が光ったのを見て、セブルスは腕を掴もうとした。夏休みの出来事が脳裏をよぎる。
しかし遅かった。
「ほあッちゃアアアア!!!」
ジェームズがドアに向かって回し蹴りをした。
「ジェームズ!!人間らしくふるまえと言ったはずだ!!!」
その瞬間、父トビアスがドアを開けた。
ジェームズはトビアスに見事な回し蹴りをキメてしまった。
「……………」
「…ごめん…セブ…忘却術使っていい?」
トビアスはなぜ自分が床に寝ているのか分からなかった。見上げると、そこに息子セブルスの顔があった。
「なぜ俺はここに寝てるんだ?」
「階段から落ちたんです」
セブルスが表情を変えずに言った。
ジェームズがドアの前で、できるかぎり小さくなろうと手を組み合わせて立っている。
トビアスがセブルスの肩越しにその姿を見つけた。
「貴様!!夏休みの!!」
体を起こしかけ、みぞおちを押さえ、再び横になった。
「セブルス!!あいつを追い出せ!!」
仰向けのまま怒鳴り散らす。
セブルスは何も言わず膝を付いていた。
トビアスの怒声だけが部屋に響き渡った。
「セブ…」
ジェームズが小声で呼んだ。
セブルスが振り返ると、ドアに手をかけている。
セブルスは首を振った。
「そこにいろ…」
すがるようにジェームズを見上げた。
その時、突然ドアが勢いよく開き、ジェームズの後頭部を直撃した。
アイリーンがトビアスを見下ろし立っていた。
「あら、あなたお昼寝?」
「母さん!」
セブルスが立ち上がった。
「セブルス!」
アイリーンは大きな紙袋を雑に床へ置くと、セブルスを抱き締めた。
「ただいま帰りました…」
セブルスは頭一つほども背の低い、小柄で華奢なアイリーンの背中に手を置き、すぐに放した。