アイリス 鹿猫
セブルスも自分の胸元と、ジェームズの表情を見て、元の姿に戻ってしまったことを知った。
「…そんな…」
列からリリーが立ち上がった。シリウスたちのように息を詰まらせて、目を見開いている。
「セブ…」
「………ジェームズ…」
二人が顔を見合わせた時、最前列にいた背の高い、若い男が立ち上がった。
艶のある鳶色の長髪を流し、鋭く光る青い瞳がジェームズのハシバミ色の瞳とぶつかった。
「…まさか…」
ジェームズは背の高い男を見つめた。
男が口を開いた。
「ここは神聖な場、一切の偽りは無に還る」
誰もがホグワーツで聞いた深い声が響いた。
ジェームズはダンブルドアを思い切り睨み付けた。
「僕たちは“破れぬ誓い”を結びました。僕の妻はセブルスです」
ダンブルドアは首を振った。
「とっくに分かっている。気付かぬか?違和感に」
ジェームズははっとした。
あの瞬間、奇妙な壁を感じたことを…。
「まさか…」
「そうだ、私が細工した。全て無になるように」
ジェームズの目に怒りが宿った。
「クソジジイ…」
「君は運命を受け入れることを学ぶべきだ」
ジェームズは眉間に皺を寄せて、ダンブルドアを睨み付けたあと、セブルスを抱き上げた。
そのまま赤い絨毯へ踏み出す。
バチバチと音が弾け、ジェームズの足に激痛が走った。
「ジェームズ!!」
セブルスが足元を見下ろし、声を上げた。
「ジェームズ!!よせ!下ろせ!!…足が…!」
ジェームズはセブルスを強く抱きかかえた。その目はダンブルドアと、誓いをたてる黒服の男を見据えている。
「ジェームズ…!!」
セブルスがすがるように名を呼んだ。
ジェームズの白い裾は赤く染まり、破れ、足には裂傷がついていた。
「下ろせ…ジェームズ…もういい…」
涙が溢れた。
「ジェームズ…」
セブルスは首を振った。
「もういい…」
ジェームズはセブルスの顔を見下ろし、微笑んだ。
「よくないよ…セブ…あそこまで行って、誓いをたてなきゃ…」
やさしく目を細めながら、肩を包む指先は痛みで震えている。
セブルスは目を見開いた。