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アイリス 鹿猫


墓地に激しい雨が降る。

土はぬかるみ、泥は流れ、石碑だけが豪雨に洗われ艶を帯びている。

シリウスは雨に打たれながら立ち尽くしていた。
墓地入り口の黒い鉄柱は天へ伸び、その厳格さはゆるぎない。

黒髪に黒い服に身を包んだ長身は、まるで三本目の柱に見えた。

リーマスは激しい雨の中、シリウスに近付いた。


「雨の中、そうやっていい男が立ち尽くしていると、ひどく芝居がかっていけないね」

棒読みで声をかけ、隣に立った。

シリウスはうつむいたまま微笑んだ。

二人は雨に打たれるに任せ、ずぶ濡れになってしばらく並んでいた。


「…ブラック家…」

シリウスが呟いた。
リーマスは何も言わず、墓石を見つめた。
シリウスの言わんとしていることがよく分かった。


「…忌まわしい血だ…」

「僕は君のそばにいられるならそれでいいよ」

シリウスはその言葉に首を振った。

「自由にならない…それが欲しくて、逃げて、抗って、なのにお前さえ幸せにできない…」

歯を食いしばり、苦しげに眉を寄せた。

リーマスは視線を落としたまま微笑んだ。


「純血の血…狼の血…僕の中にも忌まわしい血は流れている…シリウス…」

リーマスは顔を上げ、シリウスの横顔を見上げた。
シリウスは視線を感じたが、うつむいたままだった。

「シリウス?」

静かな声に呼ばれ、苦しみに歪んだ顔がリーマスを見下ろした。

リーマスは優しく目を細めた。


「シリウス…僕たちはいつだって不自由な運命の子供じゃないか」


シリウスは口を開きかけたが、声が出ず、リーマスの体を掻き抱いた。

慟哭に震える肩を、広い背中を、リーマスの手が優しくあやす。


「シリウス…僕は幸せだよ…君がいる…君がここにいてくれる…僕を愛してくれる…僕は幸せだよ…それ以上、何も望まない…」



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