アイリス 鹿猫
「ルシウス…私たちは見届けなければならない。それがどんなに私たちにとって残酷で苛酷なものだとしても」
「何のためにだ?」
ルシウスの冷たい声に、アーサーは苦しげに目を細めた。
「私たちが前に進むために…」
ルシウスの眉間に皺が寄り、アーサーを嫌悪の眼差しで睨み付けた。
「見てどうする…」
ルシウスの心に前後不覚になるほどの怒りが湧いた。そしてそれ以上に悔しさが…。握り締めた拳が震え、それは抑えきれないほどの炎となった。
ルシウスはアーサーの胸倉を掴んだ。
「アーサー!!見てどうするんだ!!幸せな…私たちが叶わなかった…幸せを…見てどうするんだ!!」
涙が頬を伝い、零れ落ちた。
「アーサー!!二人を見て何になるというんだ!?ついえた夢か!?私たちが叶わなかった形か!?なぜ見なきゃならない!!!なぜ!!」
ルシウスは我を忘れ、慟哭した。
アーサーは自分の胸元を掴み、叩いては泣き崩れる細い体を抱き締めたい衝動に駆られた。きつく目を閉じ、震える両肩を手のひらで掴むと、そっと引き離した。
「ルシウス…私は見届けてやりたいんだ。彼らは、法がでっち上げた自然というものによって困難に立ち向かっている。だから祝福してやりたいんだ。それに…当日、何が起こるか分からない…」
落ち着き払ったアーサーの声に、ルシウスは乱れた呼吸を整えもせず、肩にかけられた手を払い落とした。
「…出て行ってくれ」
うつむいたまま、呟いた。
プラチナブロンドの髪が顔にかかり、表情を隠した。
アーサーは静かに部屋を後にし、扉の前にしばらく立ち尽くしていた。
床に透明な雫が数滴落ちた。