アイリス 鹿猫
ルシウスに会うのは、地位の高い者と決まっている。
それでもアーサーはルシウスに伝えたいことがあった。何としてでもルシウスと二人きりになりたかった。
アーサーは応接室に入ってゆく上司とルシウスの姿を見つけた。そして、誰もいない隣の部屋に入り、ドアを少し開けて待った。
しばらくすると、上司の明るい声が通路に聞こえてきた。
「ここで結構」
ルシウスの冷たい声がする。
アーサーは扉を開け、通路に一人でいるルシウスの腕をすばやく掴み、部屋へ引き込んだ。
「貴…様!!」
ルシウスは黒く長いマントの裾に気を使い、顔を上げ、目の前に立つすらりとした赤毛の男を睨み付けた。
「久しぶりだね…」
アーサーは微笑んだ。
ルシウスはこれ以上ないほどの形相でアーサーの顔を睨んでいる。
何か言葉を発すれば、涙が零れそうだった。
懐かしい声、懐かしい体、そして眼差し。
ルシウスは息ができなくなるような感覚に耐え、アーサーを無視して扉を開けようとした。
「聞いて欲しいことがあるんだ」
アーサーがその手首を握った。
びくりとルシウスの体が強張る。
アーサーはルシウスの手首が一段と細くなったことに気付き、想いが溢れる前に手を放した。
「…何だ…?」
「ジェームズとセブルスが結婚する」
「………」
「式はごく身内で済ますことになっている。私も出席する。君にも出席してもらいたい」
ルシウスの眉が上がった。
「戯言を……」
「本当なんだ…。まだたくさん問題はあるが、神秘部が許可を出した。彼らは結婚する…」
アーサーの真剣な声に、ルシウスは目を見開き、押し黙った。
二人は見つめ合ったまま、長い沈黙が流れた。
そして、アーサーが決心したように沈黙を破った。