アイリス 鹿猫
「君は運命の女神に会ったことはあるか?」
唐突に振られた話にセブルスは怪訝そうに目を細めた。
男は答えが返ってくるかどうかなど気にもしていない眼差しで、話し続けた。
「私は一度だけある…まるで娼婦のようだった。全ての汚れを身に纏い、無垢な者よりずっと無垢に見えた。そして無邪気に笑う。私はその時言葉を失った。それからもずっと…。彼女に会える人間は少ない。会った者は皆、無言者になる」
セブルスが何か言いかけた時、男は立ち上がり、セブルスの背後を通ると、扉を開け、退室を促した。
後日、ジェームズとセブルスのもとに一通の手紙が届いた。
“形式は自然の規則に従うならば、許可をする”
ジェームズは喜びにセブルスの体を抱き上げた。
「姿形を変えさえすればOKだ!!」
雨は数日間に渡って降り続いた。
リーマスはシリウスを探し回っていた。
シリウスがずっと自分を気遣っていたことを知っていた。そして、悩み続けていたことも知っていた。
「どこ行っちゃったんだろう…」
傘はどこかの店で失くした。
リーマスは雨の中、灰色に染まるダイアゴン横丁を駆け抜けた。
息を切らし、途方にくれた頃、雨に煙る墓地が遠くに見えた。
アーサーは窓に叩きつける雨音を聞きながら、静かに溜息を漏らした。
今日はルシウスが魔法省に来る予定になっている。
アーサーに会いに来るのではない。ルシウスは由緒あるマルフォイ家の家長として、その資産をいくつかの施設に寄付している。その関係での来省だった。
アーサーよりずっと年上の上司が席を立った。どうやら時間らしい。
アーサーは上司の後をそっとつけた。