アイリス 鹿猫
卒業式を終え、ジェームズはセブルスの両親の元へ行こうと言い出した。
ジェームズのプロポーズから半年以上、セブルスは自分の両親のことだけを気に掛けてきた。
良き理解者の母アイリーンはともかく、あの父トビアスが賛成するはずがない。それどころかジェームズを見るなり何をしでかすかわからない。夏休みでさえ、トビアスはジェームズに傘を振り回し追い掛けてきた。
バスの窓から、きらきらと光る海を眺めながら、セブルスは細く長いため息をついた。
その時、絡められたジェームズの指がきつく絞められた。
横目でその顔を見ると、心配そうに微笑んでいる。
ー…自分より緊張し、悩み続けていたのはジェームズなのかもしれない…ー
セブルスはジェームズの顔を見てふと気が付き、そして微笑んだ。
「大丈夫だ…ジェームズ…」
強く手を握り返した。
スピナーズ・エンド。
掃き溜めのような…最果てのような街。
ジェームズは通りを歩きながらセブルスの肩を抱いた。
ひときわ鬱蒼とし、人がいるのか分からない家に辿り着くと、セブルスは緊張の面持ちで呼び鈴を鳴らした。
応答はなかった。
もう一度押す。
やはり誰も出てこない。
「誰もいないの…?」
ジェームズが小声で言った。
「いや…そんなことはない。帰る日時は伝えてある。もしかしたら母が買い物にでも行っているのかもしれない…。父だけの時は絶対に出ないんだ」
「君でも?」
「ああ…」
「そっか…」
ジェームズは杖を出し、ドアノブに向けた。
セブルスがその手を掴んだ。