アイリス 鹿猫
ゴブレットの中身を飲むしかないようだった。
セブルスはそっと深呼吸をすると、銀のゴブレットを掴み、飲み干した。
視界が消えた。
廃墟だった。
閉ざされた扉に何か書いてある。
ソファーが破れ、横たわっている。
物音一つしない。
木が水に浸っている。路地にも溢れ、流れ、時計が止まりそうな速度で秒を刻む。
ドアに写真がかかっている。
テラスに土砂が積もる。
壁に埋め込まれた絵は楽園。
鳥が飛ぶ。
鳥だけが飛び交う。
男の子が泣いている。
小さな男の子が必死に涙を拭っている。
裸足のまま歩いている。
四方に跳ねた黒髪。
男の子は立ち止まり、泣いている。
-…ジェームズ…?
セブルスは声をかけた。
男の子は泣いている。
-…ジェームズ……
何か大切なものをなくしたのだろう、男の子は迷子のようにさまよっている。
-…ジェームズ…何を泣いているんだ?…何が欲しいんだ?何がなくて泣いているんだ…?ジェームズ…僕はここにいるぞ…泣かないでくれ…
セブルスは少しだけ口元に笑みを浮かべた。
-…いつも泣いていたのは僕じゃないか…ジェームズに泣くなと言われるほど…ジェームズ…けれども、お前も泣いていたんだ…本当は…泣いていたんだ…
ジェームズ…
………セブルス…
「好きなようにしか生きられない人間がいるんです」
静まり返った神秘部の応接室にセブルスの声が響いた。
セブルスは自分の声に驚き、我に返った。
「今のは一体…」
軽いめまいと息切れがして、しばらく放心した後、男の顔を見た。
やはり似ていると思った。
面長で切れ長の目、読み取れない表情…。
「あなたはエイブリーの父ですか…?」
男は眉一つ動かさず、セブルスの漆黒の瞳を見た。