アイリス 鹿猫
「セブルス・スネイプです」
神秘部の扉の前でセブルスが出した声は、奇妙に響き、冷たい石壁と床に吸い込まれた。
古びた木の扉が開き、黒髪を後ろに撫でつけた背の高い男が現れた。
男はセブルスを中へ通した。
セブルスは木の扉が気になって仕方がなかった。
見るからに海中で腐ったような断面をしているのに、軽い動きでぱたりと閉じる。
光の粉をまぶしたような表面も不思議だった。
「中へ…ここが応接室になっている」
何もない部屋だった。
あるのは食堂で使う巨大な長テーブルと椅子が13脚。
扉に近い椅子の前に、銀のゴブレットに入れた液体が湯気を上げている。
男は上座に腰掛けると、無言で手のひらを差し出し、座るように指示した。
セブルスはおもむろに椅子をひき、腰掛けた。
居心地の悪い沈黙が流れた。
何か話し出さなければならないのに、口がなくなってしまったような感覚を覚えるほど、言葉が出なかった。
無碍に却下されたジェームズとのことについて、再度願い入れるつもりだったのに、何も出てこない。
ただ自分がそこに座っていることが全てのような気さえした。
セブルスは男に気付かれないように小さく頭を振り、顔を上げ、男を見た。
男は無表情だった。
あと五分もすれば、あれが蝋人形だと思い込むことができそうな気がした。
その時、男が瞬きをし、もう一度手のひらを差し出した。
セブルスは目の前にあるゴブレットを見つめた。そしてまた男を見た。
相変わらず手のひらを差し向けている。