アイリス 鹿猫
二人だけになったリビングに静けさが戻った。
虚しい沈黙が流れる。
「つまりさあ…女ならいいんだろ!!」
ジェームズが座ったまま組んだ脚を上げ、テーブルの縁を思い切り蹴った。
カップの中身がばしゃりと跳ね上がる。
「ジェームズ!物に当たるな!」
セブルスは短く言い放つと間を取り、溜息をついた。
「ジェームズ…僕は何もこだわることはないと思う…こうして共にいるだけでいいじゃないか…」
囁くような声が、どこにも馴染めない鳥のように空中を漂った。
ジェームズは怒りも露わに鼻で笑い、すぐに眉間に皺を寄せ、首を振り、うつむいた。
その目はこぼれて行き場を失くした紅茶の溜まりを見つめている。
「…僕はさ…セブ…やりたいことをしたいんだ。何かがそう叫ぶんだよ。たとえば、やりたいことをしなければ、十年長く生きられる、そう言われたとするよ?だけど僕はその十年に何も感じない。そんなの…。僕はね!」
ジェームズは勢いよく立ち上がると、眉を上げたままのセブルスの手を強引に握り、振り上げると明るく言った。
「セブ!君と結婚したいんだ!!」
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