アイリス 鹿猫
神秘部の人間は今まで会ってきた人々よりも、不思議な雰囲気を持っていた。
小柄で太り、頭が禿げ上がった男、そして背の高い痩せた男。後者は長い黒髪を後ろに撫でつけ、表情はなかった。一方、小太りの男は、しきりに汗を拭い、ぺこぺことお辞儀をした。
「いえ…ですから…それは大変無理な相談でして…」
小太りの男が落ちつかなげに視線を彷徨わせた。
目の前ではジェームズが口を結んだまま男を睨み付けている。
「あなたの噂はかねがね聞いています。ホグワーツ時代は首席であり、クィディッチでは多く活躍された選手…」
男の言葉にジェームズの目つきが険しくなった。
「何が言いたいんですか?」
怒気を含んだ低いジェームズの声に、小太りの男が額をごしごし拭いた。
「つまり、あなたならもうお分かりかと…われわれの言いたいことが…」
セブルスはじっと事の成り行きを見守っていた。
とくにジェームズが癇癪を起こさぬよう注意を払って。しかし、ジェームズが爆発するのは時間の問題だった。
ビリビリとジェームズの体から怒りが溢れているのが感じられる。
それを最も敏感に察知したのは小太りの男だった。
「まあ!そういうわけでして…われわれができることはありません。それだけです」
小太りの男が言い放った時、背の高い男が立ち上がった。
セブルスはこの背の高い男に見覚えがあった。正確には聞き覚えがあった。
魔法省神秘部に所属する男、無表情で切れ長の目、後ろに撫で付けられた黒髪…。
「あ…」
セブルスが口を開きかけた時にはすでに二人の姿はなかった。