アイリス 鹿猫
「リーマス…」
「何だい?」
明かりを消したベッドの中で、リーマスは視線を上げた。
シリウスがリーマスの顔にかかる細い髪を指ですくい、頬を撫でた。
「いや…なんでもない…」
シリウスは言葉を濁し、リーマスの額に唇を押し当てた。
リーマスは一瞬目を閉じ、くすぐったそうに肩をすくめて小さく笑った。
「僕はこのままでいいよ」
シリウスの腕の中でリーマスの静かな声が聞こえた。
シリウスはぎくりとしてリーマスの目を見た。
「僕たちはこのままがいい…」
透き通るようでいて、深い琥珀色の瞳が光っている。
シリウスはずっと考えていたことを見抜かれ、言葉を失った。
ジェームズたちのように、自分たちも結婚をしたい。
けれどもそれは、リーマスをブラック家に入れることを意味していた。
自ら勘当されたようなものだったが、それでもブラック家の末裔であることは消せなかった。
「シリウス…僕はブラック家に入りたくなくて言ってるんじゃない。僕が人狼だからだ」
抑揚のないリーマスの声に、シリウスは勢いよく起き上がった。
「二度と…」
シリウスの感情を抑えた低い声がした。
「二度とそんなこと言うな…」
怒りに光る灰色の目が、暗闇を睨み付けている。
リーマスは目にいっぱいの涙を溜めて、背を向けて体を丸めた。
シリウスは黒髪を掻き上げ、ベッドを降りると洗面所へ姿を消した。