アイリス 鹿猫
チョコレートの中に串に刺さった苺がくぐらされた。
リーマスが嬉しそうにそれを頬張った。
続いてジェームズとセブルスがチョコレートの中に苺を入れた。
「…俺は…俺は…カレーの尊厳を守りたかった…」
シリウスがスプーンを握り締めて泣いていた。
「シリウスあ~ん」
リーマスが無邪気な笑顔で苺を差し出した。
その愛らしさに睨み付けたい衝動は吹っ飛び、頬が弛む。
決まり悪そうに苺を頬張るシリウスを、ジェームズとセブルスが見つめている。
「み、見んなよ」
もごもごと口を動かし、二人を睨み付ける。
「僕も見たくないさ」
「馬鹿面だな」
二人は同時に言い放った。
リーマスは満足気なため息をつき、串を皿に置くと、杖を取出し、チョコレートの鍋に一振りした。
チョコレートは元のカレーに戻った。
そして改まった顔つきでジェームズとセブルスを見つめた。
「さて、僕たちにできることは何かな?」
リーマスの真っすぐな眼差しに、二人は一瞬目を合わせ、すぐに視線を戻した。
「難しいんだろ?君たちの結婚」
リーマスには、背負うものの重さからか、自然と読心術のような、気配といったものを感じ取る癖がついていた。
ジェームズが降参だとばかりに深いため息をつき、口元に笑みを浮かべた。
「“破れぬ誓い”を結んでおかなきゃいけない」
ジェームズはリーマスとシリウスを交互に見て言った。
セブルスはジェームズの横顔をじっと見つめている。
「アーサー先輩の助言だ…その上で神秘部の連中に話をつける」
しばらく沈黙が続いた。
セブルスは銀の串先に視線を落とした。
願いと不安が同時に大きくなり、押しつぶされるような感覚に陥った。
ふとダンブルドアの言葉を思い出した。
昼間、ホグワーツで校長室に呼ばれ、他愛無い話に付き合わされた。
その中でダンブルドアは何の脈絡もなく呟いたのだ。
「幸運を願う…」と。そしてセブルスの手を握った。
「セブ?」
ジェームズの声に我に返り、顔を上げた。
気遣わしげなハシバミ色の瞳が自分を見つめている。
セブルスは急に愛しさが溢れた。
「今すぐに…」
絞りだした声にジェームズは強く頷いた。
「ちょっと待て!カレーを食わせろ!」
シリウスが慌てて席を立った。