アイリス 鹿猫


「本当!?でも焦げ臭いよ!」

ジェームズは笑いながらセブルスの腰を抱き、リーマスの手元を見下ろした。

「これは大丈夫!」

リーマスが誇らしげにスクランブルエッグを差し出した。

「さっきまでは炭焼き小屋だったんだぜ」

シリウスがリーマスの背後から腕を伸ばし、摘み食いをした。

「砂糖の味しかしねえ…」

「僕、着替えてくるよ!」

ジェームズは味見を勧めらぬよう、慌てて別室に姿を消した。

「リーマス!使った器具は洗え。後片付けまでやって、料理だ」

セブルスはリーマスに声をかけ、ジェームズのあとを追った。




「…無理をするな…」

セブルスは薄暗い部屋でジェームズの背中に話し掛けた。

「無理なんか…」

「帰ってきた時に分かった」

静かな声にジェームズは頭を掻きむしり、振り向くと、セブルスの体を抱き締めた。

「来週、神秘部の役人が来るって」

「…そうか…やはり難しいのだな…」

「大丈夫…うまくいくさ!」

ジェームズは腕の力を強めた。
セブルスは首筋から漂う自分を包む温かな匂いに、思わず目を閉じそうになり、体を離した。両手でジェームズの頬を包み込む。

「ジェームズ…独りで抱え込むな…僕だってできることをしたい」

「…うん」

ジェームズは一度、セブルスの痩躯を強く抱きすくめると明るく言った。

「行こうセブ!君にも料理を作ってもらわないと、お菓子パーティになっちゃう!」

セブルスはがばっと顔を上げ、ジェームズを置いてキッチンへ戻った。




シリウスの声が聞こえる。セブルスは早足でキッチンを覗き込んだ。

大鍋の前でシリウスがリーマスを羽交い締めにしていた。

「早まるな!リーマス!」

「放してよ!シリウス!」

「ダメだ!お前は隠し味の意味が分かっていない!」

「分かってるよ!これを入れるとカレーの風味が増すんだ!」

「板チョコをそんなに入れてみろ!風味が増すどころか風味が消える!」

「君にカレーの何が分かるんだ!!」

「ああ!分かるさ!手を離せば十分後にはチョコレートフォンデュだ!!」

「素敵じゃないか!」

「それはもはやカレーじゃねぇぇ!!!俺はカレーの尊厳を守る!」


取っ組み合いの様子を見せ始めた二人に、セブルスは苦笑した。
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