アイリス 鹿猫
「知ってる?結婚とは、権利を勝ち取ることなんだ」
ジェームズが九月の砂に裸足でステップを踏む。
「たとえばさ、病気になって、聖マンゴに入院する…その時癒師に聞かれる、ご関係は?その時それが夫や妻なら、堂々とその傍らにいることができるんだ…」
セブルスの背中に手を回し、誰もいない海岸でジェームズはのんびり踊る。
セブルスは戸惑いながら、ジェームズの手に引かれるまま、ステップを合わせた。
「たとえばさ、死んだとするよ?」
セブルスの手を引き寄せ、胸元で一回転。
九月の海は夏のまま、眩しく光っている。
「その時、その死を看取る権利。それは共に生きる権利」
背を押さえ、仰け反らせ、唇を合わせた。
「僕は間違っているかもしれない…だけど…」
細い体を抱き上げた。
生暖かい潮風が髪をなびかせる。
「結婚とは共に歩くことなんだセブルス…。見てごらん」
そっと体を降ろし、水平線を指差した。
「あの空と海がくっついているところがあるだろ…そこに向かって舟を出す。あの接点に向かって。だけど、どこまで行ったってあれが交わる場所なんてない。大事なのは、二人が同じものを見て進むことなんだ。恋はお互いを見ることだ。そのままじゃいつかつまづく。愛は手を取り、同じものを見て歩くことなんだ」
セブルスはジェームズの横顔を見つめた。
真っすぐ遠くを見ている。
その眩しそうに細められた目は優しく、そして力強かった。
「そうだな…」
セブルスはジェームズの手を握った。
「やっと口をきいてくれた…」
ジェームズがセブルスを見下ろした。
「そんなに緊張しなくても大丈夫だよ。きっと君のご両親を説得してみせるから…」
セブルスはただ頷いただけだった。
二人は足の砂を払い、靴下を履き、身仕度を整えるとバス停へ向かった。