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アイリス 鹿猫






選んだだけだ。
彼も自分も。
妥協とは言わず、成り行きとは言わず、運命とも言わず、選択だった。
最愛の人と別れ、互いに妻を持った。
選んだだけなのだ。
だから、単なる名残にすぎない。
軽い後遺症のようなものにすぎない。
立ち止まり、永久の孤独に咽ぶ夜も。
ないものねだりに過ぎないのだ。
私たちはよりよい選択をしたのだから。
選んだのだから。


それが結婚というものだ。




「眼鏡かけたんですね」

ジェームズの声にアーサーははっとした。

雨の日のカフェは薄暗く、あちこちが湿り気を帯びて、人々もどこかうっとおしそうな顔でお茶を飲んでいた。

「お待たせしてしまってすいません」

ジェームズは椅子を引くと、濡れたローブを背もたれにかけ、一礼した。

「時間どおりだよ。私が早く来ただけだ」

アーサーは腰をあげたが、ジェームズが恐縮だと言いながら手振りで抑え、握手をした。

「同じものを」

ジェームズはウェイトレスに手早く注文した。

「ひどい雨ですね。すみません、こんな日に」

「気にしなくてもいいよ。明日も雨だ」

アーサーが笑う。

「いつから眼鏡をかけるようになったんです?」

ジェームズはしたい話をいきなり切り出すのは失礼だと思い、当たり障りのない話を振った。

「卒業してからかな。仕事の時だけだよ。魔法省は広いし、細かい書類も多いから」

「そうですか」

ジェームズはちらりとアーサーの眼鏡の縁を見て、レンズに度が入っていないことに気付いたが、あえて言わなかった。



「それより、おめでとう」

「ありがとうございます」

ジェームズは微笑んだが、その表情は堅かった。


一昨日、アーサーからジェームズのもとに届いた魔法省の結論は、ジェームズとセブルスの結婚を反古にせよというものだった。

つまり結婚は認められない。


「本当にひどい雨だ」

アーサーが言った。

ジェームズは微笑んだまま窓の外を見やった。
午後三時だというのに、どんより暗く、往来の黒いローブ姿が葬列を思わせた。


「ええ…」

ジェームズは自分のことのように相槌を打った。

「先輩…」

ジェームズが顔を向けた時、カフェテーブルにウェイトレスが皿とコーヒーを持ってきた。
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