アイリス 鹿猫
ジェームズのフクロウ、ジェームズJrが朝の光に向かって飛んで行く。
「手紙を出したのか?」
身支度を整え、ローブを手に掛けたセブルスがジェームズを見た。
「うん…魔法省にいるアーサー先輩に。この吉報と、これからの手続きを相談するために」
ジェームズはJrが見えなくなってから、窓を閉めた。
「荷物は?」
「これで全部だ、ジェームズ忘れ物はないか?切符は?」
「ここに」
二人は荷物を抱え、階段を降りた。
トビアスが早足でリビングに戻る姿をジェームズは見た。トビアスは階下で二人を気に掛けていたらしい。
「時間ね」
リビングに入ってきた二人にアイリーンは微笑んだ。トビアスはすでに新聞を顔の前に広げていた。
「玄関まで見送るわ。トビアス!彼らの荷物を」
トビアスが渋々といった様子で、二人の荷物を玄関に運んだ。
「寂しくなるわ」
「また来ます。色々な季節の度に。式だってありますし」
ジェームズはアイリーンの体を放し、その瞳を見たあと、トビアスを見た。
トビアスは憮然としたままうつむいている。
「お義父さん」
「…なんだ」
ジェームズが両手を広げ、トビアスを軽く抱擁した。
「ありがとうございます」
トビアスは頷きもせず、抱擁を返すこともせず、ただ固まっていた。
ジェームズはトビアスの耳が赤いのを見て微笑むと、アイリーンに視線を戻した。
アイリーンもトビアスを見て微笑んでいる。
「ママ・アイリーン」
ジェームズは真っすぐな目を向け、一呼吸おいた。
「どうしても言いたかったことがあるんです」
静かにはっきりとした口調で言うと、隣で自分を見上げているセブルスの腰をそっと抱き寄せた。
「ママ・アイリーン。こんなに素敵な人を産んでくれてありがとうございました。僕はセブルスに出会って、生まれて初めて人を愛する喜びを知りました。そして愛する人を守る強さを知りました」
「お義父さん…そんな素敵な人と生きてゆく許しを下さったこと、感謝しています。ありがとうございます…」
アイリーンが両手で口元を押さえた。しかし、その瞬間、隣から鼻をすする音が聞こえた。