アイリス 鹿猫
トビアスがジェームズを追いかけ回している。
「お義父さん!セブルスをお嫁にください!」
「黙れ小僧!!さっさと出ていけ!」
怒鳴りながら置時計を投げた。
ジェームズはそれをキャッチボールのように胸元で受けとめ、窓際に置き、またバタバタと走る。
「小癪なガキめ~!!アイリーン!火掻き棒をどこへやった?アイリーン!?アイリス!!」
トビアスは息を切らしながらリビングへ飛び込むと、セブルスとお茶を飲んでいるアイリーンに怒鳴った。
「アイリス!!火掻き棒だ!!」
トビアスは歯切れのよい愛称でアイリーンに詰め寄ったが、アイリーンは可笑しさを必死でこらえながらトビアスを見た。
「あなた、あれはこの間、落ちて折れたカーテンレールの芯棒にしたんじゃありませんか…?お忘れかしら?」
「くそッ!!」
「お義父さん?」
ジェームズはトビアスの背後に立っていた。どこか楽しそうである。
「まだ言うか!!」
二人はまた駆け回った。
「待て小僧!!投げてやる!貴様を投げ飛ばしてやる!!」
「お義父さん!!僕はセブルスを愛しています!!」
「生意気なことぬかすな!!この青二才が!!」
「僕はもう十九才です!!」
「あああ~!!!」
ドタドタと家中を騒がせる二人のやりとりの中、アイリーンがくすくす笑う。セブルスは落ち着きなく、二人が見え隠れするのを必死に目で追っていた。
「セブルス、そんなに不安な顔しなくても大丈夫よ。うちの窓は割れてもすぐ元に戻るようにしてあるから」
「母さん…」
心配する内容が違う…。セブルスは心の中で独りごちた。
「お昼にしましょう?二人のためにスタミナ料理を作らなくちゃ」
楽しそうなアイリーンに、セブルスはため息をついた。
次の日も、また次の日もジェームズとトビアスは家中を駆け回った。
目が合えばジェームズがにっこり笑う。そしてトビアスが唸る。ジェームズがセブルスを愛していると言えば、殺してやると叫び追い掛けてくる。
そんな日々の中、ついにジェームズが二階の窓辺に追い詰められた。
ゼーゼーと息を切らしながら、トビアスが迫る。ジェームズも息が上がっていた。