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アイリス 鹿猫


「…すまない」

セブルスは扉を閉めると、ジェームズ用に用意された部屋のベッドに腰掛けるその姿に顔を背けた。
ハシバミ色の目を見てしまえば、涙が止まらなくなるのがこわかった。

「セブルス」

ジェームズが名を呼ぶ。

「すまない」

扉の前に立ったきり、うつむき声を震わせている。

「鍵締めて」

囁きに近い声で言う。セブルスは後ろ手に静かに鍵を締めた。

ジェームズは立ち上がると、軽い足取りでセブルスの手を引き、ベッドに座らせた。

「顔上げて」

両手で頬を包み、黒髪を梳いて後ろに流した。

「すまない…」

セブルスはハシバミ色の瞳と、やさしく微笑む顔を見るなり、ジェームズの肩口に額を押し付けた。

「セブ…泣かないで」

嗚咽を必死に堪え、肩を震わせるセブルスに囁き、腕を回す。セブルスは首を振りジェームズを力いっぱい抱き締めた。

「すまない…」

しゃくりあげながら繰り返し言葉を紡ぐ。

「大丈夫だよ、セブ。泣かないで…けっこういい手応えだったと思うんだ」

「…あれの…ッどこ…が…」

「お義父さん、僕に怒鳴って怒りをぶつけてくれただろ?本当に関心がなければ、感情なんてぶつけてくれないさ」

「…父は…いつも…あんな、だ…」

ジェームズはくすくす笑った。

「君のお父さんは君が思っているよりずっと君のことを想っているはずだ。でも、君みたいに感情を表すのが上手くないんじゃないかな?」

セブルスは首を振った。

「明日…帰ろう…」

「ダメだよ…セブ…僕はもっとちゃんと君のお父さんに接しておきたい…帰るのはそれからだ」


二人はすでに住む家を持っていた。ジェームズがシリウスの隣に居を構えようと決めた。

「セブ…僕は今の状況を心から楽しんでいるよ。だって君のお父さんだもの。だから、君は何も心配しなくていい…」

ジェームズはセブルスの顔を覗き込んで言った。

「それに…あんまり泣かれると困るよ…何ていうか、君の涙はひどくそそられるんだ」

いたずらっ気を含ませて、鼻の脇をポリポリと掻いた。
セブルスはとたんに赤面し、体を押し退けた。

「ジェームズ…!!」

「分かってます。ここは君の家だ。粗忽なことはしないよ。でも、ね、キスぐらいしよ?」
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