月色の蹄 鹿猫
「セブルス~!!」
ジェームズはセブルスを見つけるなり、足早で歩み寄った。
「待った?」
ハシバミ色の瞳に嬉々とした表情を溢れさせてセブルスの顔を見下ろした。
「…別に待ってなどいない」
街は休日の賑やかさに湧いていた。
往来する人々は店の前で足を止め、自分を楽しませるものがないかと期待に顔を輝かせている。
人々のローブは生温かい春先の風に軽くなり、ジェームズもまた、厚手のローブから淡いグレーのスプリングコートを緩やかに羽織っている。中はピンク色のシャツだった。
セブルスは勢いよく跳ねた黒髪に、淡い茶色の瞳を持つジェームズの、均整のとれた体を横目で眺めた。
何を着ても様になっている…。
何故この男が自分のことを愛するのか、時々分からなくなる。
そして、それと同時に、そのような思いがジェームズを傷付けることだということもよく知っていた。
「何か変?」
ジェームズはちらりと自分の胸元から足先へ視線を落とした。
「いや…何も」
「君は相変わらず素敵だ♪」
ジェームズはセブルスの耳元に口付けた。
「いつも同じ格好だが?」
セブルスが思わず嫌味を言えば、ジェームズは嬉しそうに微笑んだ。