Baby Don't Cry 猫&子世代
セブルスは不思議な少年だった。
まず絶対に笑わない。
ロンがジョークを言っても、目を丸くして珍しそうに眺めている。
そして、パンとスープを飲むのはそれなりにこなせるのに、フォークやナイフが扱えない。
まるで、日ごろろくに食事を摂っていないみたいだ。
ハーマイオニーがやさしく細い手を取って、フォークとナイフの使い方を教えた。
僕はふと思いついて、目の前にあった大きなストロベリームースを皿に取り分けて、スプーンを置いて、セブルスに差し出した。
セブルスはやっぱりびっくりして、ピンク色のムースと僕の顔を交互に見て、困ったようにハーマイオニーの顔を見上げた。
「こういうときは、ありがとうって言うのよ」
ハーマイオニーはセブルスの戸惑いを分かっていた。
「…あり…がとう…」
頬を染めて、セブルスが僕を見る。
僕は一気に顔が熱くなった。
嬉しくて、それからどこか悲しかった。
きっとセブルスは、ありがとうなんて言ったことがないんだ。僕もそうだった。
愛されずに育った。
ありがとうなんて言えるような毎日じゃなくて、そんな機会もなかった。強制はされたけど、幼い頃はそうだった。
僕は、恥ずかしそうにスプーンでムースをすくって口に運ぶセブルスの様子を見つめた。
「ハリー、あんまりじろじろ見てると食べられなくなるじゃない」
ハーマイオニーの声にはっとした。
気がつくとセブルスから目が離せなかった。
「新入生…?」
僕の後ろからネビルが話しかけてきた。
僕たちは顔を見合わせた。
「…そうだった」
大事なことを忘れていた。セブルスがどこから来たのか?どこの生徒なのか?
「もしかしたら誰かの弟かも…」
ネビルが少年を見ながら言った。
「…どうする?」
「ダンブルドアだ」
困ったときの神頼み。僕は思わず校長先生の名前を口にしていた。