The Lovers エブマル
「何があったんだ…?」
セブルスは黒い海に立ったような床を見つめ、ゆっくりと自分のベッドへ近付いた。
エイブリーは杖を軽く振り、呪文を唱えながら部屋を元の色に戻している。
セブルスはエイブリーの背中を見た後、杖を出し、同じように部屋からインクを消していった。
「…ものすごい量だな…エイブリー、これは本当にお前のインクなのか?一体何リットルあるんだ?」
机を杖で撫でながら言う。
「インクは小さな壺一つだ。あいつが俺のインク壺を割ったときに、魔法力が暴発したか、何か呪いでもかけたんだろう」
エイブリーは粉々に割れた黒いガラスの破片を拾い上げた。
「…喧嘩したのか?」
「…さあ…喧嘩とは言えない…喧嘩は双方が激情するものだ…」
「……」
セブルスは小さく息を吐いた。
「それなら、マルシベールの一方的な怒りは何なんだ?」
「…さあ…俺がしょっちゅうやりとりしている手紙の内容を明かさないのが癪に障ったのか、外出の約束を蹴って、他の用事を優先させてその内容を話さなかったことか、一緒にいるところに飛んできたフクロウ便を優先させて、中庭に置いてきたことか…」
「全部だろうな…」
セブルスは杖を振り、最後に残ったインクのシミを黒い蝶に変えた。
黒い蝶は掴み所のない飛び方で、窓から抜け出した。
マルシベールはやり場のない怒りに両手をわざと振り、大股で歩き続けた。
黒い足跡は通路を汚し、すれ違う生徒たちは黒い汚れが自分に跳ねぬよう、通路の隅に身を引いて避けていた。
城を出て湖の淵まで辿り着くと、靴のまま水に足を踏み入れ、そのまま頭が潜る所まで歩いて行った。