The Lovers エブマル
「何だこれは!!?」
セブルスは思わず声を上げた。
何しろ自分のベッドも机も、そこにあるはずの教科書から着替えから、何もかもが黒かったのだから。
「インクだ」
エイブリーが素っ気なく言った。
セブルスは眉間に皺を寄せ、ようやく慣れてきた目で部屋の隅々を観察した。
立ち込める匂いも、白檀、乳香、龍脳を混ぜた独特の香りがする。
「エイブリー…お前のインクか?」
「そうだ」
セブルスは座り込んでいる人影を見下ろした。
「マルシベール…?」
いつもは金色の巻き毛が、インクでべったりと黒く垂れ、白い肌も、シャツも同化し、まるで重油にまみれた海鳥のようだった。
「…なんだよ」
青く大きな目が開き、セブルスを見上げた。
セブルスはしばらく言葉が出なかった。
まず、何からしてよいのかわからない。
部屋を片付ける、エイブリーに事情を聴く、マルシベールに声をかける…。
「手伝ってくれ」
声を出したのはエイブリーだった。
杖を持ち、鋭く切れ長の目で部屋を眺め回している。
セブルスはマルシベールを見下ろした。
黒いインクで光る拳が震えている。
エイブリーが選んだのは部屋の片付けだった。
マルシベールが立ち上がった。
ドロドロに黒く濡れた体のまま、セブルスを避け、乱暴にドアを開けると部屋を飛び出した。