The Lovers エブマル
エイブリーの朝はフクロウが届ける新聞と手紙から始まる。
朝食を摂り、授業が始まるまで新聞に目を通し、一巻きの羊皮紙を広げる。
羊皮紙の長さはいつも30cm~45cm。上三分の一に内容が書かれ、下三分の二は白紙になっている。
エイブリーは寮の机の引き出しにそれをしまい込み、鍵をかける。そして、その日一日分の教科書と筆記具を鞄にしまう。
エイブリーの夜着姿と寝姿を見た者はいまだに誰もいない。それどころか、制服姿以外の彼を見かけた者は誰もいなかった。
彼と恋愛関係であるマルシベールでさえ例外ではなかった。
「結局オレはそのへんにいるヤツと何ら違いはないんだ!!」
マルシベールが大声で言った。
「それが嫌なら付き合うな」
抑揚のない声がした。
ドアに振動が伝わるほどの爆音が聞こえ、談話室でひと時を過ごしていたスリザリン生がほぼ全員びくりと飛び上がった。
「…何の騒ぎだ?」
セブルスが談話室に入ってきた。
チェスに興じていた太ったスリザリン生が駒を持ったまま、ちょいちょいと奥の部屋を指し示し「喧嘩だ」と言った。
「イタズラの実験じゃないのか?」
太ったスリザリン生と対戦していた髪の長い少年が、迷惑そうに言いながらチェスの駒を置いた。
どちらも間違っている。喧嘩でもなく、実験でもなく、単なる痴話喧嘩だ。セブルスはそう思ったが、黙って部屋へ向かった。
ドアを開け、セブルスは唖然とした。
黒一色の世界だった。
部屋へ一歩足を踏み入れれば、ぴちゃりと靴が液体を踏む。
開いた窓の隙間から差し込む朝の光が、黒い海辺でテラテラと光る鳥の影のように、ベッドや机や椅子の輪郭をかろうじて浮き上がらせた。
その中央に真っ黒な人間が座り込み、背の高いエイブリーが立っている。
エイブリーだけが色を持って見えた。つまり、彼だけが黒髪と、肌色と、白いワイシャツと銀と緑のスリザリンカラーのネクタイと、マットな色合いのローブを着て佇んでいた。